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2019.01.31

泰興物産と東京高専が共同開発
無給電・非接触で
設備稼働状況をIoTで測定

泰興物産株式会社/東京工業高等専門学校

泰興物産株式会社(東京都立川市)は、生産設備の稼働状況を無給電かつ非接触で測定できるIoTデバイス 「C3-less電流センサー」を、東京工業高等専門学校(以下東京高専)と共同開発した。従来、計測と充電は別々の回路が必要だったが、これらを一つの回路に纏め無給電での駆動を実現した。同社は、樹脂成形品全般の製造と販売に取り組むモノづくり企業。化粧品用の樹脂パーツや、コスメティックブラシ、化粧筆など、創業当初から高い精度が求められる樹脂成形品を扱ってきた。元々同社と東京高専は、電車で30分程の距離にあり、普段から学生との交流は盛んだという。これらの環境の中で、同社が新たなコンセプトのIoTデバイスを、東京高専と共同開発したのは、ある意味必然ともいえるだろう。

産学連携が開発のきっかけ。

樹脂成形品メーカーである泰興物産は、創業当初から社長含め東京高専出身者がほとんどで、交流も盛んであったことから、今回の共同開発もスムーズに実現したという。実際の売り上げは、まだ50個程度だが、現在ニーズの在る企業を探している状況だ。製品の貸し出しにも積極的に応じており、既に日刊工業新聞など多くのマスコミにも取り上げられており、大手企業からの引き合いもあるという。樹脂成形品メーカーの同社が、なぜIoTデバイスの開発に至ったのか、同社で開発部長を務める丸田智子氏に、製品開発に至るきっかけを聞いた。 丸田部長: 「当社は創業当初から高専と密接な交流がありました。そんな折、高専の実習工場の先生から、開発品の外皮(外側の樹脂成形部品)の製作依頼がありました。それが水戸先生だったんです。着手してすぐ、これは面白いと実感。水戸先生に他の企業が付いていないなら、是非うちにやらせて欲しいとお願いし、快諾をいただいたという流れです。」

新たな挑戦・・・無給電・非接触で電流を測る。

東京高専の工学博士、水戸慎一郎氏によると、電線を挟み込むクランプ型の電流センサーは、元々微弱な電力を発生させており、当初、開発段階では、微弱電流を利用し、フルスペックな電流計の為の無給電システムを目指すものの開発は難航していたという。しかし今回は、正確な電流測定をせず、電流が流れているか否かを検知する機能に絞っており、しかも、ある方法によって実際の電流も測れることが分かってきた為、開発の方向性を絞れたという。結果的にキャパシタの容量などを工夫し製品の開発に成功。既に特許を取得し2018年1月に発売している。

非接触センサー(写真左の青い部品)が、測定対象に電流が流れた時に発生する磁界を検知し、比例した量の電流を流す。センサーに接続した新開発のデバイス(写真右)が、センサーから発生した電力だけを使い、電流の計測とデータ処理、パソコンなどへの送信を行う。

IoTデバイス導入の敷居を下げる。

電流測定デバイスは、従来から存在するが、給電用の電源が必要だったり、設置時に生産設備の電源を切る必要もあった。「C3-less電流センサー」は、既存設備の電源コードに簡単に後付けできるため、設備の電源を切れない企業や、低コストでIoTを導入したい企業にも利用しやすい。大企業ではIoTの専門家が対処するが、中小企業ではそこまで手が回らない。中小企業がIoTデバイスを試したい時、企業側に寄り添った丁度いいものが無いのだ。IoT導入を検討する多くの中小企業にとって、導入への敷居を一気に下げてくれそうだ。

自社で導入効果を検証。 次のステップでは、生産管理システムも視野に。

当然ながら同社は、自社の樹脂成形機などに同システムを導入。既に1年以上利用し効果を上げている。従来は、どの装置が、いつ、どれだけ稼動しているかを手書きの日報で管理していたが、同システム導入により、人が見落としてしまいそうな精密なデータを一括管理することができる。詳細な稼働時間が分かれば、無駄な時間は見えてくる。これを積み重ねることで、最小限の設備で、最大限の効果をあげるための道筋が見えてくる。実際、同社の丸田開発部長は、ここを基点に、将来は、本格的な生産管理システムの実現を目指しているという。更に同社は、電流検知以外に温度、湿度、照度検知も無給電で実現する開発を続けている。また、検出データの種類を増やし、現在使っている電波も、もっとよく飛ぶ波長に切り替えていきたいという。一昔前まで、大量にデータを集めても、判断は人間がするので分析は困難だったが、現在はAIで膨大なデータを瞬時に分析、瞬時に結果を示せる。データ量は多い程精密な分析も可能だ。今後、ユーザーの設備で実証実験を進め量産化を目指す。

■非接触センサー、クランプ式で簡単装着

■発信器部分

付けっぱなしで、付けたら忘れられるくらいなものでないと普及しない。

水戸博士:基本的にIoTデバイスは、たくさん装着することが前提ですから、IoTデバイスにバッテリー交換が必要となると・・・とても現実的ではないですよね。更に電源ラインを追加するとなると故障のリスクもあります。既存の設備に影響が無いかたちで、大量のデバイスを追加できるシステムでないと、IoTデバイスの普及は難しいだろうと思います。

お客様のニーズはある。これは面白いと思ったことがきっかけ。

丸田開発部長:私からのメッセージは、「町工場でもIoT」です。導入コストが安い、誰でも装着できる。従来のシステムでは異常が発生するとアラートで知らせてくれるのですが、当社の様に樹脂成形機が作動していると騒音で聞こえませんが、これならPC画面で分かります。異常に気づかず作動し続けると、大量の不良品が発生してしまいます。

産学連携の理想的事例。

従来は、卒業生獲得を目的に大学との関係構築する大手企業が多かった。同社の様に、大学と有機的に連携している事例は、まだ稀だ。その一方で、大学が生み出した未来の価値を自分たちの企業にいかに取り込むかを真剣に考える企業も増えているという。しかし大手企業の中に、顧客に製品を提供するための方策を、真剣に考える企業家精神を持った人間がいないと話は進まないのも事実だ。今回の事例は、企業と大学の連携が、お互いの歩み寄りにより実現した好例として今後の進展が期待されている。

泰興物産株式会社 開発部長 丸田智子氏(写真左) 東京工業専門学校の学生 吉竹氏(写真中央 ) 東京工業専門学校 工学博士 水戸信一郎氏(写真右)

インタビュイー

interviewee

泰興物産株式会社

開発部長 丸田 智子氏

企業情報

社名
泰興物産株式会社
所在地
東京都立川市錦町6-18-1
設立
1975年5月
事業内容
プラスチック加工(射出成形) プラスチック製品の販売 化粧品用部品の販売 コスメティックブラシ 化粧筆の販売 その他、上記に関わる一切の業務
資本金
1,000万円
従業員数
9名

学校情報

社名
国立東京工業高等専門学校
所在地
東京都八王子市椚田町1220-2
設置学科
機械工学科,電気工学科,電子工学科,情報工学科,物質工学科
学生総定員
5学科 1000名