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2023.03.15

データ不足でも大丈夫!
AIを頼れるパートナーにしよう

NECデータサイエンス研究所 小山田 昌史 氏

AI(人工知能)を活用するべきだと思いつつ、その運用に欠かせないデータの不足に悩む企業は多いもの。しかしNECデータサイエンス研究所の小山田昌史氏によれば、整理されていなかったりアナログな状態で散らばっているデータを整形することで、分析するに足るリッチなデータを作り出すことが可能なのだとか。その方法を伺うとともに中小企業がAIを活用すると何が良いのか、またどんな明るい未来が開けるのかをお聞きしました。

小山田 昌史 氏(おやまだ まさふみ)


NECデータサイエンス研究所 小山田 昌史 氏

プロフィール

  • 日本電気 株式会社(NEC)
  • NECデータサイエンス研究所 知識ベース学習研究グループ 主幹研究員・グループ長

筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(博士)。2013年NEC入社。
2016年度 人工知能学会全国大会優秀賞(口頭発表部門)、2018年 WebDB Forum 優秀論文賞、
2019年 情報処理学会山下記念研究賞受賞。共著に『Firefox Hacks Rebooted』(オライリー社)。

コスト削減と属人性の排除

―― まず最初に、中小企業がAIを活用することのメリットについてお伺いできますか?

一般的にはコスト削減が最大のメリットのひとつであると言われています。理由としては、複数の従業員が同じ作業を重複して行ってしまったり、人によって作業効率にばらつきがあったりするといった問題を、安定的に同じペースで作業を進められるAIに置き換えることで解決できるからです。

そこで我々も「コストが削減できますよ」という切り口で、さまざまな会社にAIを導入させていただいているのですが、実際に使ってもらうと「属人性を排除できる」という点がすごく良かったと言われることが多いですね。

中小企業では人に依存している仕事が多く、「あの人が辞めちゃったらどうしよう」「あの人に聞かなくちゃわからない」といったことが多々あります。また、ベテラン社員さんと新人さんとでは、作業スピードや仕上がりに大きな差があります。ですがAIを活用することで情報を共有でき、作業のクオリティも平滑化することができます。

今後、世代交代が進んでいく中でスムーズに事業の承継をするためには、AIや機械化が大きな手助けになるのではないでしょうか。他にもプロセスが透明化されるという利点もあります。企業の監査などを行う際に、人の脳の中にあったことがAI化することによってエビデンスとして残るため、どういうプロセスで意思決定がされたのかがわかるようになるのです。

うまくAIを頼っていこう

―― AIの活用により、業務改善できたという具体例を教えてください。

自社の商品の売り上げ、いわゆるPOSデータを営業活動に役立てている消費財メーカーさんを例に挙げてお話したいと思います。同社はAmazonや楽天などのECサイトの売上情報を営業活動の拠り所としているのですが、商品ごとではなくカテゴリーごとの売上推移を見るために、すべての商品に対してタグ付けを行っているんですね。

例えば「UVカットの特性がある」「インスタグラムでバズった(注目を浴びた)」といった情報を毎週毎週、数千種類もの商品にタグ付けしていくわけです。当時その作業を1~2人でされていたのですが、タグ付けを始めてから終わるまで毎週数日かかっていました。そうすると、タグ付けを終えて営業やマーケターの方がその結果を活用できるようになるまでに、結局数日間のリードタイムが発生してしまうという課題がありました。

そこで我々がAIの技術を導入させていただいたところ、数時間ですべての商品のタグ付けが完了するようになったのです。やり方としてはWeb上の情報や過去に付けられたタグの情報を学習したAIが、数万もの商品に対して一気にタグ付けを行い人間が目検でパーっと見て確認していくという方法ですね。AIと人間との協調により成し得た業務改善の成功例だと思います。

―― AIの利活用が進んでいくと、人がやるべき仕事は変わっていくのでしょうか?

これからの時代は「うまくAIを頼っていく」という考え方を持つ必要があると思います。例えば、我々のような研究者や新規事業開発者はこれまで「膨大な情報を処理して世の中のトレンドをいち早くキャッチアップし、新しいことを考える」という能力が問われてきましたが、今話題のChatGPT(チャットジーピーティー/北米のスタートアップが作ったAI)の存在なども視野に入れると、そうした能力の大事さは想定的に低くなる可能性があるとも感じています。

ChatGPTは、こちらが聞いたことに対して答えを返してくれるというAIです。仕組みとしては、世の中にある文章を膨大に溜め込みそこから質問に関連することを引っ張り出してうまく合成しているのですが、裏に人間がいるんじゃないかと思ってしまうほどクオリティが高いのです(笑)。そういった「聞けば何でも教えてくれる」という存在が生まれたとき、我々はそれをうまく活用しながら人間にしかできないことをうまく見定めていく必要が出てくるのだと思います。

世の中には「AIが人の仕事を脅かす」みたいな論調もありますが、どちらかと言うと「すごく頼れる存在」という風に捉えていくと良いのではないでしょうか。

NECデータサイエンス研究所 小山田 昌史 氏

足りないデータは補完が可能

―― 中小企業がAIを活用する際、デジタルデータの不足が壁になるケースが多いと思いますが、その対処法を教えていただけますか?

やみくもにデータを集める必要はなくて、まず最初に「こんなデータがあれば、こういうことができる」という要件定義をすることが大事ですね。例えば「従業員の離職率を下げたい」という目的に対して、いったいどういうデータが必要なのか。やりたいことから必要な分析処理の逆算を繰り返すことで、必要なデータを見定めていくというプロセスを踏むんです。

要件定義をすることで「取れているデータ」「取れていないデータ」、そして「取るべきデータ」「必要ないデータ」が明確になってきます。よくやってしまいがちなのが、目的に対して必要ないデータを集めるのに労力をかけてしまうということ。そうならないように今後は取るべきデータを見定めて、それを継続して取っていく必要があります。

初期段階では「取るべきだけれど、取れていないデータ」があると思いますので、それを穴埋めするために我々はオープンデータや同業他社さんのデータを活用しながら、だんだんとその会社本来のデータに置き換えていくという手法をとっています。そうすることで、最初からレベルの高い状態でスタートでき、比較的スムーズにAIを活用していけるのではないかと思います。

―― 今のお話は、御社が提供されているデータの“質”や“量”を高めるサービスだと思いますが、それについてもう少し詳しくお聞かせください。

Webの情報や政府が出している統計データなどの中には、実は使えるデータが散らばっているのです。私どもは、そういった整理がされていなかったりアナログな状態で散らばっているデータを独自の技術で自動整形し、リッチなものに作り上げていくサービスを行っています。

例えば、おにぎりの販売予測をしたいとき。本来はそのおにぎりが過去にどのぐらい売れたかという実績が必要になりますが、似たような情報として他社が展開したおにぎりの販売実績に関するニュース記事があったりする。膨大なデータから代替可能なものを特定していくと、結構データの穴埋めができるのです。

これを行うためには「文章や表など、表記の異なる複数のデータの意味を解釈しながら吟味していく」というプロセスが必要になりますが、当社が長年研究してきた「データ意味理解技術」(多種多様なデータの本質的な意味をAIで推定する技術)を活用することでそれが可能になっています。

―― どうやって、アナログな文章や表をデジタルデータに置き換えるのですか?

アナログな書類情報はOCR(画像のテキスト部分を文字データに変換する光学文字認識機能)で文書化します。2~3年前は、このOCRを活用し「書類をスキャンしてデジタルデータに変換する」ということにDX投資されている中小企業が多かったように思います。

本来、データを集めるというプロセスの先に利活用するという重要なプロセスがあるのですが、集めたところでふうっと一息ついてしまっているケースが多いですね。ですから今は多くの企業において、集めた宝の山が眠っている状態だと思います。今後、その宝の山を活用するフェーズに移っていくなかで、膨大な情報をしっかり咀嚼する必要が出てくるでしょう。

分析の目的は「現状把握」と「未来予測」の2種類に大別されると思いますが、前者は業務上ボトルネック(業務の停滞や生産性の低下を招いている工程・箇所)になっている部分や改善可能な箇所を見つけるために必要で、後者は先ほどのおにぎりの例のように、これから先のことを予測するものになります。どちらも同じくらい大切で、世の中的にも力を入れて取り組まれていますね。

NECデータサイエンス研究所 小山田 昌史 氏

業務改善や未来予測もAIで

―― 実際に業務上のボトルネックになっているところが見つかり、それが改善した例がありましたら教えてください。

RPA(ロボティクスプロセスオートメーション等が高度な作業を人間の代わりに代行する取り組み)というソリューションが4~5年前に流行り、さまざまな会社がそれを取り入れて発注の仕組みや事務処理などを個社でカスタマイズされている場合が多いのですが、それが使いづらかったりうまく機能していないケースがよくあります。本当にボトルネックになっている業務ではない部分が自動化されていて、結果的に業務全体はさほど効率化されていないという状況です。

その場合、まずは「従業員の方がどこにどれくらい時間を使っているか」というのを見える化してみると、問題点がみつかりやすいです。例えば、ある会社では勤怠管理画面にログインしてから次の画面に移るまで毎回5秒かかっていることが判明。そこを自動化することで、ムダな時間を削減することができました。

今、お話した例のように社内システムには非効率な部分というのが結構あったりします。ただ、それを丸ごとシステムとしてリプレースするのはコストもかかるし大変です。なので、まずはそうしたシステムの非効率な部分をRPAなどで自動化する中間ステップを踏み、段階的にシステムの改新(モダナイゼーション)を実施していくことで、業務のボトルネックを現実的に解消していけるのではないでしょうか。

―― 未来予測にAIが役立っている具体例も教えていただけますか?

例えば、新規オープンのコンビニは思ったより人が来なくて在庫を抱えたり、逆にお客さんが多いのに商品が足りないといった事態を回避しなくてはいけませんので、AIを使った売上予測をご提案することがあります。

具体的には「今週水曜日、雨が降るとおにぎりは○○個売れるよ」といったことを、その理由付けと一緒にお伝えします。理由付けというのは「水曜日はTVでこういう番組が放映されて、その番組の効果は見込めるけれど、雨で客足は遠のくから結局○○個売れるだろう」といったような感じですね。AIがどういうロジックで予測したのかを説明した方が、現場の方の心理的抵抗が少ないように思いますので。

最終的にその数値をそのまま使うかどうかは現場の方へ委ねることになりますが、「すごく参考になる」というお声をいただくことが多いです。やはりAIによる完全自動化ではなくて、人間とAIがうまく連携するみたいな考え方が大事なのではないでしょうか。

データの保存形式を見直そう

―― 中小企業や小売店がAIをもっと活用するために、データの保存方法を変える必要がありますか?

例えば、現状がエクセルに人が手打ちで入力しているといった状況であれば、間違いを減らすという意味でもコストを減らすという意味でも、業務システムがデータを自動でデータベースに記録するような仕組みに移行していくのが良いでしょう。

ですが、それは中期的な話で、短期的には今まで貯めてしまった雑多なアナログデータを、まずはどんな形式でも良いからデジタル化してうまく活用していくのが先決かと思います。そうやって現状手に入るデータをしっかり業務改善につなげながら、今後に発生するデータは確実に標準化された形式で綺麗に記録していくという段階的なデータの利活用は、周囲のお客さまを見ていても成功する確率が高いように感じます。

―― その標準化されたデータ形式を取り入れるのに、導入コストはどのくらいかかるのでしょうか?

もちろんデータの量やシステムの規模によってコストは変わりますが、近年ではクラウドなどの仕組みもあり、どのような会社さまでも無理なくスタートが切れるコスト感になってきていると思います。気をつけなければならないのはシステム以外の顕在化しないコストでしょうか。実際に「DXするぞ」となると、その企業の各事業部門の方にご協力を仰いで、各部門で貯めているデータを1か所に集めるお手伝いをしていただかないといけません。

そうすると「現場の業務があるのに何でそんなことしなきゃいけないんだ」という反発が出ることもあります。そこを説得するコストとか、現場の方がデータを集めるために割く時間のコスト等もかかりますよね。とはいえ、5年前10年前と比べるとご協力いただく必要がある作業量自体も減ってきていますので、現実的な段階に来ていると思います。

NECデータサイエンス研究所 小山田 昌史 氏

データを整えて、AIの利活用を

―― まだほとんどのデータがアナログで、AIの活用に至ってないという中小企業の経営者の方々に向けて、アドバイスやメッセージをいただけますか?

皆さんが持たれているデータは、ものすごい価値のあるものなんです。うまく使ってあげると、会社の課題の改善に役立ちますし、他にも本当に面白いことがいろいろできます。「Data Is the New Oil(データは新しい石油である)」と言ったりしますが、ある企業がお持ちのデータは、実は他社から見れば喉から手が出るほど欲しい、すごい資産になる可能性があるのです。

ただ、それがデジタル化されておらず意思決定に活用できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。ですから、無理のない範囲で「なるべく活用できる状態に変えていく」という意識を持たれると良いと思います。よく「クイックウィン」と言いますが、いきなり大きな目標を追い求めるのではなく、まずはミニマルな(最小限の)プロジェクトで成功体験を作ってそれを積み重ねながら、ステップバイステップで進めていけると良いのではないでしょうか。

そうはいっても行動に移すのが難しい場合、まずは成功している他社事例を調べていただくのも手です。その際、課題と改善例が自社と一致するものをチェックするようにしていただくと良いかもしれません。また、先に予算をとってしまって後戻りできなくするというのも良いですね。先立つものを用意することでうまくことが進んでいくという考え方もあると思います。

今、世の中には我々の会社も含め、そういったご支援をできるようなソリューションや会社がたくさんありますので、ぜひデータを整えてAIの利活用を進めていただけたらと思います。中小企業が変わることで日本の競争力はどんどん高まっていくはずですから。

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