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2024.01.25

“新しい経験”でビジネスと人を繋ぐノーコード

現在、注目されている「ノーコード」。ビジネス界のトレンドワードとして誰もが耳にしたことがあるだろう。ノーコードとは、プログラミング言語(ソースコード)を記述せず、プログラミング知識がなくとも誰もがアプリケーションやWebサービスを開発できるサービスをいう。ビジネス向けグループウェアにも実装され、自ら業務アプリを作成している企業も増えている。また専門家でなくともAI(人工知能)を構築できる「ノーコードAI」も登場し、これからデジタル化を図ろうとする中小企業にとってノーコードやAIは必要な知識といえるかもしれない。今回、ノーコードおよびAIの現状とこれからの可能性についてノーコード推進協会 代表理事 中山 五輪男 氏に話を聞いた。

中山 五輪男 氏(なかやま いわお)


プロフィール

  • 一般社団法人 ノーコード推進協会 代表理事
  • アステリア株式会社 CXO(最高変革責任者)

法政大学工学部電気工学科卒業。複数の外資系ITベンダーやソフトバンク、富士通を経て、現在はアステリア社のCXO(最高変革責任者)ならびに自身が立ち上げたノーコード推進協会の代表理事として幅広く活動中。

AI・クラウド・IoT・スマートデバイス・ロボットの5分野を得意分野とし、年間約200回の全国各地での講演を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。様々な書籍の執筆活動や複数のテレビ番組出演での訴求等、エバンジェリストとしての活動をしつつ、国内30以上の大学での特別講師も務めている。

思いついた業務アイデアを簡単に実現できる「ノーコード」

―― 「ノーコード」はどのようなもので、何ができるのでしょうか?

ノーコードとは「コーディング(プログラムを書くこと)」を行わないことです。プログラミングを一切せずにアプリやWebサイトなど、いろいろなものが開発できます。ノーコードと似たもので「ローコード」があります。ローコードはプログラミングを最小限に抑えて開発します。若干のプログラミング知識を要しますが、その分、高度で拡張性のある開発が可能になっています。

昔のWebサイト(ホームページ)はHTML言語()を記述して作成していましたが、後年になってWebサイト作成ソフトが出てくると、ページ内に文字や写真を配置するだけで作れるようになりました。このWebサイト作成ソフトも「ノーコードツール」なのです。
「ノーコード」という言葉を知らなくとも、私たちは昔からノーコードツールを使っています。  HTML言語=「HyperText Markup Language」(ハイパーテキストマークアップ言語)の略。Webページ作成のために開発された言語。 テレビCMで流れているネットショップ作成サイト、自社アプリ作成などもノーコードを使ったサービスです。知らないうちに、ノーコードは広まっているのですが、一般の人にはノーコードという言葉はあまり浸透していません。最近になってビジネス向けグループウェアのCMで「ノーコード」という言葉が打ち出され始めました。 ノーコードは教育現場にも広がっています。2020年度「学習指導要領」の改定によりプログラミング教育が小学校でも必修となり、プログラミングの授業ではノーコードツールが使われています。アメリカ・マサチューセッツ工科大学のメディアラボが無償で公開している「Scratch(スクラッチ)」です。はじめから用意されているプログラム(命令)のブロックを組み合わせ、キャラクターを動かすことが出来ます。 プログラミングを書いて勉強するのではなく、ノーコードツールを使ってアプリの作り方を学んでいるようです。自らのアイデアをアプリとして簡単に実現できるのは画期的ですし、ノーコードツールの使い方を学んでいくのは、方向性として私はいいと思っています。壮大なシステムを構築したり、複雑なプログラミングをしたりするのは一部の人間だけでよく、まずはデジタル技術で何が出来るのかを知ることが大事ではないでしょうか。

社員のデジタルスキルを磨く“業務アプリ開発”

―― 「ノーコード」は誰でもすぐに使えるものでしょうか、また、どのような自社業務アプリが作られていますか?

必要最低限パソコンが使えれば大丈夫です。表計算ソフト・文章作成ソフト・プレゼンテーションソフトなど一般的な事務用ソフトの基本的な使い方が出来れば問題ありません。1回の研修でほぼ全社員がアプリを作れるようになった会社もあります。数千人規模の社員を抱える大手メーカーの事例ですが、社員たちが1年間で1万数千アプリ作ったそうです。開発されたアプリのうち会社に認められたのは約600。残りの1万数千は開発しても使われなかったのですが、会社としては社員がアプリを開発する経験を積んだことに重きを置いていました。

また社員にノーコードやローコードを学ばせる動きは中小企業にも広がっています。新たなデジタル人材を求めるよりも現職社員のデジタルスキルを上げるため、「リスキリング(新しい知識やスキルを学ぶこと)」に取り組む企業が増えています。 企業や分野ごとに多種多様な自社アプリが作られています。基本的には日報関連が多いと思いますが、以下のようなアプリがあげられます。

  • 製造業や建築・土木関連では、現場から直接会社に送れる作業報告書
  • ホテル・旅館では、客室清掃点検、備品管理、お客さまの忘れ物管理
  • 運送業やバス・タクシー業などでは、アルコールチェック管理

これまで紙に記入して管理していたものや、事務所に戻って書類を作成していたものを、スマートフォンやタブレットなどの情報端末に置き換え、直接現場から報告・管理できるアプリが増えています。なかでもアルコールチェックは2022年10月から専業ドライバーだけではなく、車で営業に回る営業マンにも義務化されて急増しています。このアプリでは、アルコールチェック機器の計測数値をスマートフォンのカメラで撮影して報告するのですが、業務アプリではスマートフォンのカメラ機能が利活用されています。

これからのビジネスの主流は“ノーコード”と“AI”

―― ノーコードとAIを組み合わせることで、どのような可能性が広がるのでしょうか?

まず社内システムなどでノーコードを使ってAI化するものが「ノーコードAI」です。業務データをAIによって分析・解析させると今後の予測が提示されます。ノーコード推進協会 会員の会社が作るノーコードAIツールでは、過去の売上情報や在庫情報などの情報を3つ入れるだけでAIが予測してくれます。例えば、天候情報を入力すると、過去データから雨の日の売上予測を行って仕入れ量をAIが判断してアドバイスしてくれます。

皆さんがニュースなどでよく目にする生成AI「ChatGPT(チャットGPT)」(※1)は究極のノーコードAIかもしれません。ChatGPTにオセロゲームを「JavaScript(ジャバスクリプト)」(※2)でプログラムを書いてと質問を投げ掛ければ、オセロゲームのプログラムが表示され、実際に動作することが出来ました。ノーコードの定義が「プログラミングをしない」であれば、究極のノーコードAIと言ってもいいでしょう。 ※1 ChatGPT=正式名Chat Generative Pre-trained Transformer。アメリカのOpen AI社が開発した人工知能を使ったチャットサービスであり生成AIの一種。 ※2 JavaScript=Webページに動きをつけるためのプログラミング言語。 私の講演会でもノーコードとAIの組み合わせについて話すのですが、私はノーコードツールでアプリ開発をする際にAIチャットツールを利用します。例えばホテルの清掃点検アプリを作るなら、どのような点検項目が必要なのかAIに聞くと項目を次々と上げてくれます。さらに、10項目を教えてと繰り返せば永遠に項目が提示されて点検項目はすぐに100~200にも及びます。私たち人間は提案された中から必要な項目を、精査すればいいのです。ノーコードとAIを使えば、誰でも簡単に業務に必要なアプリを作ることが出来ますし、今後このような使い方が主流になっていくと思います。 中小企業におけるノーコードやAIの普及度合いですが、私が全国で講演を行っている感覚では地方の普及率は低いと思います。首都圏では、業種を問わずビジネス向けグループウェアを使ってノーコードで業務アプリを作る中小企業は増えてきましたが、地方では、まだハードルが高いと感じている企業が多いようです。講演会でAI生成ツールの話をしても反応は少なく、おそらく皆さんは試してみたこともないのかもしれません。ノーコード推進協会を立ち上げたのは、ノーコードやAIの可能性を伝え、新しいことに挑戦する人が増えて欲しいからです。

“人と人を繋ぐ”架け橋となるデジタル

―― DX推進に関して、中小企業の経営者の方々にメッセージをお願いできますか?

とにかく、一歩前に踏み出すことです。中小企業であれば、経営者が自らノーコードでアプリを作ってみるのがいいと思います。ノーコードなら文系出身の経営者でも簡単に作れるレベルです。私の知っている事例では、経営者が試しにスマートフォンでアルコールチェックアプリを作って社員に配ったところ、社員の評判を得て、現場からの要望を聞いて改良するうちにVer.100を越えたそうです。これが外部のシステム会社に100回も修正を発注していたら大変な金額になります。コストが抑えられて、社内の事情に合わせた最新アプリに変更できるのはメリットではないでしょうか。

それから若手社員に「経験」を積ませることが重要です。ノーコードに興味を持った若手社員が社内インフルエンサーとして広めたことで、導入を実現した話も聞きます。たった1人の社員が会社を変えることはよくあります。先述のリスキリングを行ってスキル習得と経験を積み、社内のデジタル化への意識醸成を高めるのがいいと思います。 世の中では「IT」と「DX」という言葉がよく使われていますが、この2つの言葉は似ているようで異なります。その違いは何かと尋ねられたら、私もうまく答えられません。しかし、台湾デジタル発展部部長オードリー・タン氏はこう答えたそうです。 「ITは機械と機械を繋ぐものであり、デジタルとは人と人を繋ぐもの」 この発言での「人」とはデジタル技術が人間にもたらした「新しい経験」のことで、AIやIoTといったデジタル技術を使った「新しい経験」の繋がりが「DX」なのではないかと私は解釈しました。デジタル技術を使った「新しい経験」の数々が繋がっていくことで、新たな業務革新や新しい世界を生み出すのだと思いました。まさに“人と人を繋ぐ”ことをしやすいデジタル技術がノーコードだと思うのです。まずは自分たちの現場で使う業務アプリを作ってみる「新しい経験」から始めてみるのがいいのではないでしょうか。

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