2024.02.22
協働ロボット~人との協力で進む中小企業の新たな生産スタイル~
IDECファクトリーソリューションズ 株式会社 取締役 鈴木 正敏 氏
多くの中小企業で、人手不足やコスト削減など「生産性の向上」が求められるなか、課題解決手段の一つとして「協働ロボット」に期待が寄せられている。協働ロボットとは読んで字のごとく、人と協力して働くロボットのことである。人手だけで作業が行われていた製造現場に入り、安全性を確保しつつ効率的に作業を進めることが可能となる。技術の向上も著しく、AI(人工知能)や機械学習などの最新技術を活用した小型化で高性能なロボットも登場。今後、産業界だけでなく、医療・介護や物流などのさまざまな分野で利用される可能性もあることから、多方面から注目されている。今回、協働ロボットシステムのインテグレーション業務を行い、一般社団法人 日本ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)の幹事企業であるIDECファクトリーソリューションズ株式会社 鈴木 正敏 氏に協働ロボットの現状などについて話を聞いた。
鈴木 正敏 氏(すずき まさとし)
プロフィール
- IDECファクトリーソリューションズ株式会社 取締役 マーケティング・DX推進部 部長
同社の協働ロボットシステムインテグレーション事業の立ち上げを推進。
情報提供サイト「協働ロボット.com」を企画運営。
講演、セミナーにも積極的に対応し、協働ロボットの導入支援を積極的に展開している。
省スペースでフレキシブルな生産ラインを実現できる協働ロボット
―― 「協働ロボット」とはどういうものでしょうか?
ロボットを大別すると、工場など産業の自動化を目的とした「産業ロボット」と小売店や飲食店などサービス業界で使用される「サービスロボット(生活支援ロボット)」のカテゴリーに分かれます。「協働ロボット」は産業ロボットのカテゴリーに含まれます。人と同じ作業スペースで稼働し、規格に沿って人に危害を加えるリスクが低減されているのが協働ロボットです。
まずは「産業ロボット」と「サービスロボット」の違いを理解してください。この2つを分けるのは法律や規格です。産業ロボットは、厚生労働省が定める「労働安全衛生法」によって規定されています。国際規格も産業ロボットはISO10218、サービスロボットはISO13482と別規格です。現在レストランの配膳などに使われているサービスロボットは、それなりの安全性を保ち産業ロボットと比べて安価だから、工場でも使えるのではないかと思われるかもしれません。しかし工場で使える安全性を満たしておらず、もしも事故が起きたら使用した会社の責任となります。 協働ロボットの歴史は浅く10数年程度です。2008年にユニバーサルロボットという会社が初めて販売に成功しました。2012年頃から各ロボットメーカーが追随を始め、「協働ロボット」というジャンルが確立されていきます。これまでの産業ロボットは、自動車や機械製造など比較的大きなラインで安全柵に囲われ、ロボットの稼働範囲に人が立ち入らないように安全対策が行われてきました。2013年12月の規制緩和によって80W以上の産業ロボットでも人と同じ作業スペースで働くことが可能となりました。これによって安全柵の設置やスペース確保などの手間や負担、コストなどが軽減でき、省スペースでフレキシブルな生産ラインを実現できるようになりました。 現在、協働ロボットは垂直多関節ロボット、水平関節ロボット、パラレルリンクロボット、直行ロボットなどの種類があり、その特徴ごとに導入されています。 下図は縦軸が「可搬重量」、横軸が「リーチ(最大可動範囲)」です。- パレタイジング=箱詰めされたものを積み上げていく作業
- マシンテンディング=工作機械などに部品や材料を載せる、または降ろす作業
- 組立て=部品などを自動で組み立てる作業
協働ロボット導入の“成功の鍵”とは?
―― 「協働ロボット」の導入状況について教えてください。
世界的にみると日本は欧米や中国に比べて導入率は低くなっています。日本の大企業はリスクアセスメント(※)が徹底しているので導入に慎重になっているのかもしれません。中小企業からは導入に積極的な相談をいただくのですが、コロナ禍の影響などもあって投資を渋っている感じです。
※ リスクアセスメント=職場にある危険性や有害性を見つけ出し、可能な限り低減するための安全確認方法 現在、中小企業でも協働ロボットを導入できる環境は整いつつあります。先述のように安全柵で加工の必要が無いため、高い天井や広いスペースが必要なく、製造業ではない業種でも導入の可能性が広がりました。またロボットを動かすソフトウェアのプログラミングも簡易になっています。従来の産業ロボットでは専門のプログラマーを必要としていましたが、協働ロボットはベンチャー企業が市場を牽引しているので、インターフェイス(複数の異なるもの同士の接続)もわかりやすく、ローコードのようにパソコンを使えるスキルがあればプログラムできると思います。専門家を要さずに自社だけで行えるため中小企業にも比較的使いやすくなっています。協働ロボットを動かすことは簡単になってきましたが、ロボットに作業をさせるにはアームの先に、物を掴んだり、ネジを締めたりする「作業ハンド」が必要になります。ロボットとハンドは別なので、導入する企業がどのような目的で使うのか、改めて検討しなければいけません。ハンドを新たに作成するのか、どのような動きをさせるのか判断が難しいため、それをサポートするのが私たちロボットシステムインテグレータの役目です。
私たちが協働ロボット導入の“成功の鍵”とするのが「適ロボ適所」という言葉になります。ロボットが主役ではなく、人が主体となってロボットを協働パートナーとして活用することです。ロボットが得意とするのは繰り返しの作業です。例えば組み立て作業で、人がある程度組み立てを行い、その隣でロボットがネジ締めを行う、まさに人がロボットを作業パートナーとして使うようなことで協働ロボットの生産性が高まるのではないかと思います。 経済産業省がまとめた資料を元に私たちが図表にしたものですが、主に製造における作業方法として「専用機」「人手作業」「ロボット」があげられます。- 専用機=単純な内容で作業量が多ければ効率・コスト面でメリットあり
- 人手作業=変更頻度が多く作業工程が複雑なため自動化に不向きなもの
- ロボット=作業の一部で自動化が可能な専用機と人手の中間のもの
協働ロボットは「ロボット/専用機」「ロボット/人手作業」の間に入ることで生産効率を上げることが期待されています。産業ロボットの場合、加工機に資材を入れてスタートさせてから加工するまで人が張り付いていなければいけないケースがあります。大手企業でしたらすべてを自動化できる高価なロボットも導入できますが、中小企業では限られたスペースと予算などで難しいと思います。マシンテンディングの協働ロボットであれば人が張り付かずに行えます。技術の進歩と共に協働ロボットでもカメラと組み合わせてピッキングや製品検査も可能となっています。
ユーザーの方に使い方をお聞きしたのですが、完全自動化にして夜間にロボットだけで出来る作業を進め、時間短縮ができた分、昼間は社員が新しい技術開発などに取り組んでいる会社もありました。労働時間の効率化にもメリットはあると思います。安全性と生産性の両立が導入成功への鍵
―― 「協働ロボット」の安全性について教えてください。
皆さんから質問を受けますが、ロボットは作業者と接触してもケガをしないように停止します。私たちシステムインテグレータとしても安全機能を実装した協働ロボットを選び、運用システムのリスクアセスメントと安全対策の提案を行います。接触する可能性があれば危険箇所を特定して衝突値を計測。衝突力は、顔や頭部はNG、胸部なら140ニュートン(※)などと国際規格で定められています。
※ ニュートン=記号:N、国際単位系における力の単位。 1kgの質量を持つ物体に1m/s2の加速度を生じさせる力で定義されている しかし、ロボットが接触して停止すること自体を受け入れられない現場も多いです。接触して停止することには「安全上のリスク」と「生産性のリスク」の問題が出てきます。人がケガをしないように衝突力を抑えるには、荷物の重量を減らすか、スピードを落とさなければいけません。その一方で、接触して停止することで生産もストップしてしまい、タクトタイム(1製品を製造するのに必要とする時間)が関係してきます。 協働ロボットの導入は、協働ロボットの特徴を理解してもらい、安全性と生産性をどのように両立させるか最初の段階から議論・検討していただきたいです。どうしてもシステム的に安全を考慮しても除けないリスクも残ってくるので、安全とリスクについてはしっかりと社内でコミュニケーションを取って欲しいと思います。現在、中小企業でも協働ロボットの導入を検討できるタイミングだと思っています。ロボット本体の価格帯は高級車1台分程度、プログラミングも簡易になっています。またアームの先に取り付けるハンドも各メーカーのロボットでも使えるような仕様の共通化が進んでいるので、これから価格も下がってくると思います。協働ロボットはロボットだけを購入すれば即解決というわけではなく、運用方法やシステムすべてを考えて導入する必要があります。作業者の動線とロボットの配置場所によっては人との接触を減らすこともでき、安全性を向上させることも可能です。協働ロボットの導入に関心がある中小企業の方は、東京都をはじめ各自治体の中小企業支援窓口に相談してみてはいかがでしょうか。
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