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2021.09.24

中小企業のAI活用
~成功の秘訣は「学び」にあり~

近年、最も脚光を浴びるテクノロジーの一つがAI(人工知能)です。日々、更新されるテクノロジー関連のニュースでも「AI」の文字を見かけない日はありません。そのように身近になりつつあるAIをビジネスで活用しようと模索している、あるいは既に活用し始めている中小企業は増えています。そこで今回は、AIをビジネスで活用していくためにぜひ知っておきたい「学び」の大切さを中心に、AIを導入した中小企業の事例なども詳しく見ていきましょう。

岡田隆太朗

岡田隆太朗(おかだ・りゅうたろう)

プロフィール

一般社団法人日本ディープラーニング協会    
  理事・事務局長
・株式会社ABEJA共同創業者
・文部科学省

 「データ関連人材育成プログラム」評価委員
・国立研究開発法人NEDO

 「モビリティサービス分野
  アーキテクチャ検討委員会」委員

2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に一般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し事務局長に就任。2018年より同理事兼任。
緊急時の災害支援を実行する、一般社団法人災害時緊急支援プラットフォームを設立し、事務局長として就任。コミュニティ・オーガナイザーとして、数々の場作りを展開。

AIを飛躍的に発展させたディープラーニング

AIで何かできそうだ、自社のビジネスに活用してみたい。そのように考えている経営者の方は少なくないでしょう。しかし、「何かできそうだ」という漠然とした状態では、実際にAIの導入を検討しても成果に繋がるようなアイディアが導き出される可能性は低いでしょう。どのようにしてAIを自社のビジネスに活用していくのかを具体的にイメージするためには、AIの役割や、向き不向きなどを学ぶ必要があるのです。

今回は学びのための序章として、AIが世の中に広まったきっかけや、現在の発展に大きな影響を与えている「ディープラーニング」について理解を深めていきましょう。

AIの始まり

「AI(Artificial Intelligence)」という言葉は、1956年に誕生しました。そのきっかけは、アメリカのニューハンプシャー州に本部を置くダートマス大学に当時から既に人口知能を研究していた科学者などが集まって研究発表会を行ったことによります。この研究発表会は「ダートマス会議」と呼ばれ、発起人の一人であるジョン・マッカーシー氏が、会議の研究資料において「AI」という言葉を人類史上初めて使用したとされています。

ダートマス会議は約1ヶ月にも及び、参加者のアレン・ニューウェル氏達によって「Logic Theorist(ロジック・セオリスト)」と呼ばれる、AIプログラムのデモンストレーションが行われました。このAIプログラムは、数学の基礎が記された「プリンキピア・マテマティカ」(書籍)の定理を数多く証明したのです。

機械学習の誕生からディープラーニングまでの道のり

ダートマス会議の影響によって、AIが広く研究されるようになり、1959年にはIBM社のエンジニアだったアーサー・サミュエル氏が、コンピューターのプログラム自身が学習する「機械学習(マシンラーニング)」を定義します。この最初の機械学習は、チェッカーというボードゲームでコンピューターを用いて勝利するための研究から生まれました。

その後、機械学習は研究者やエンジニアなどによって研究や開発が進み、2012年になると、多数のノーベル賞受賞者などを輩出していることで知られるカナダのトロント大学が注目を集めます。このトロント大学のジェフリー・ヒントン氏(現在は名誉教授)が中心になって開発した「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる新しい機械学習が、世界的な画像認識のコンペティションで圧倒的な勝利を収めたのです。後にヒントン氏は、コンピューターサイエンスのノーベル賞とも言われるチューリング賞も受賞しています(2018年受賞)。

ディープラーニングの成果

ヒントン氏達が開発したディープラーニングは、人間の多層な脳神経回路をシステムによって再現することを目指したニューラルネットワークと呼ばれる技術(アルゴリズム)を発展させました。簡単に言えば、従来のニューラルネットワークを多層化させることによって、AIがより細かい精度で画像を認識できるようになったのです。これを実現するには、ビッグデータと呼ばれる膨大なデータをAIに学習させ、色や形など物体の特徴までをAIが抽出できるようにする必要があります。

このようなディープラーニングの成果は、世界中の研究者に衝撃を与え、その後の画像認識や音声認識などの分野での発展を遂げているのです。今や、ディープラーニングは、AIにおけるメインストリームとも言えるのです。

「圧倒的な成果を生み出したディープラーニングは大きな可能性を持った技術です。今後のAIの発展、日本の産業における重要な基盤技術になるという信念を持っています。私が所属する協会の名称をAIではなくディープラーニングと称している理由もそこにあります」
(岡田隆太朗氏)

一般社団法人日本ディープラーニング協会(以下、JDLA)はディープラーニング技術による日本の産業競争力の向上を目指し、2017年に設立されました。協会会員はディープラーニングを事業の核とする企業および有識者で、産業活用促進、人材育成、公的機関や産業への提言、国際連携、社会との対話など産業の健全な発展のために活動しています。

すべてのビジネスパーソンに向けたAIの学習

AIとディープラーニングを掛け合わせれば、汎用技術(GPT:General Purpose Technology)としての潜在能力が存分に発揮され、あらゆる産業におけるビジネス課題の解決や、イノベーションに寄与できる可能性が高まります。

汎用技術とは、さまざまな分野で活用され、経済発展の原動力となるような技術を指します。たとえば、第1次産業革命(1700年代後半~1800年代前半)では、蒸気機関が代表的な汎用技術として挙げられ、機関車、船舶、軽工業などに活用されました。また、第2次産業革命(1800年代後半~1900年代前半)では、内燃機関や発電機などの汎用技術が、自動車や飛行機などに活用されました。以降、1900年代後半から現在に続く第3次産業革命では、コンピューターやインターネットなどの汎用技術が生み出され、ほとんどの産業に活用されています。そして、情報技術(IT)の飛躍的な進歩によって、これから迎えようとしている第4次産業革命では、AIこそが汎用技術の代表格なのです。

産業革命

(出典:「平成28年度 国土交通白書」(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h28/index.html

このような汎用技術として、AIは電気やエンジン、インターネットなどと同等の発明と言っても過言ではありませんが、日本におけるAIやディープラーニングの活用は、まだ道半ばと言えます。その理由の一つとして、ビジネスパーソンの理解不足が挙げられます。

まずはAIを基礎から理解し、AIとは何か、ディープラーニングとは何か、何ができて、何ができないのかといったことを学ぶことこそがビジネスでAIを活用するための第一歩となるのです。


「AIの定義は、専門家でさえも異なります。そのせいもあって、何でもかんでもAIが解決してくれると捉えられてしまう可能性が高く、漠然とした期待を生みやすいのも事実です」(岡田隆太朗氏)

AIの学習を取り入れた中小企業の事例

将来的なAIの導入を見据えて、まずはAIの学習から着手する企業が増えています。たとえば、JDLAの会員でもある従業員数300名ほどの印刷会社では、社長をはじめ全社員がAIの学習に取り組み、JDLAが提供する検定試験のG検定(*1)に多くの社員が合格を果たしています。このような取り組みを通して、社員の会話の質が変わってきたといいます。


「従来よりマンパワーが中心の印刷工程のどこに効率化できるポイントがあるのかを解析し、道具としてのAIの使い所を見出していくことによって、現在は印刷工程をほぼ自動化できるシステムを作り上げたそうです」
(岡田隆太朗氏)


また、ディープラーニングを活用し、画期的な成果をあげている食品メーカーもあります。この企業では、人間の目視で行っていた不良品検知の作業工程にディープラーニングが得意とする画像認識技術を活用した検査装置を導入。それにより、作業の多くが自動化し、大幅な省人化を実現しています。同社は自社での活用に留まらず、システムを同業の食品メーカーにも広める活動を行い、業界全体のイノベーションにも寄与し始めているのです。


「世界時価総額ランキングを見ると、平成元年(1989年)には上位に日本企業がずらりと名を連ねていました。しかし、現在はどうかと言えば、上位20社に日本企業は1社もありません。上位企業の多くは、GAFAM(*2)などの巨大IT企業をはじめ、汎用技術であるインターネットを活用している企業で占められています。ランキングの変遷から読み取れることは、汎用技術をうまく使いこなした企業はその価値が飛躍的に高まったということです。失われた30年を繰り返さないためにも、汎用技術であるAIを理解して、現在よりもさらに活用していきたいものです」
(岡田隆太朗氏)

他にも、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために全社で、AIの学習に取り組み、G検定の合格を目指している製薬会社や、昇進試験にG検定を取り入れる金融機関などもあります。


「こうした取り組みによって何が変わるかというと、会社のカルチャーです。カルチャーが変われば組織全体が動き始め、AIを活用する道が開けるのです。しかし、社長が率先してAIの学習を呼び掛けても組織の構造的な理由から一社員の行動までに繋がらない場合も多いでしょう。そこで、重要になるのが、管理職層の役割です。まずは管理職層を中心にAIの学習に着手することが、多くの企業に当てはまるAI活用のための第一歩であると考えます」
(岡田隆太朗氏)

すべてのビジネスパーソンに向けた無料のAI講座

JDLAが、2021年5月より開講した「AI for Everyone(すべての人のためのAIリテラシー講座)」は、すべてのビジネスパーソンが無料(*注)で受講することができます。開講してから間もない講座ですが、受講者数は1万2,500人に上ります(2021年8月現在)。

*注:修了証発行を希望する場合は$49(2021年8月現在:約5千数百円)の支払いが発生します。


 具体的には、約5時間のオンライン講座となり、世界最大級のオンライン講座プラットフォーム「Coursera」(コーセラ)より配信されています。そして講師は、Googleや百度(バイドゥ)の両方に関わった、AIの世界的権威である、スタンフォード大学のアンドリュー・ング教授と、東京大学でAIの研究を行いJDLAの設立者でもある松尾豊教授の2名が務めています。

アンドリュー・ング教授が作成した、全世界60万人以上の受講者を誇る人気コース「AI for Everyone」(オリジナル版・英語)に、松尾豊教授による日本向けコンテンツを加えた特別プログラムとなり、主には以下を学ぶことができます。

・ニューラルネットワーク、機械学習、ディープラーニング、データサイエンスなど、一般的なAIに関する専門用語とその意味

・AIにできること、できないこと

・組織の課題解決のためにAIを適用できる可能性とその方法

・機械学習およびデータサイエンスプロジェクトの進め方

・AIエンジニアチームと連携して社内でAI戦略を構築する方法

・AIを取り巻く倫理的および社会的議論の概要


「AI for Everyoneは経営者の方をはじめ、中小企業の多くの方にぜひ受講してもらいたい講座です。AIで何ができるか、非常に分かりやすい内容になっています。特に経営者の方が受講すれば、会社全体でAIに対する認識が変わるきっかけになるはずです」
(岡田隆太朗氏)

参考:
AI For Everyone(すべての人のためのAIリテラシー講座)

第一歩を踏み出せばその先に未来がある

このようなAIの学習を経て、AIをビジネスに導入する段階に至った場合、小範囲でもビジネスプロセスの改善を探ってみることが第一歩となります。たとえ1%や2%などの低い確率だったとしても改善できる確率を高めていけば、人間が介在していたプロセスの多くを自動化することが期待できるのです。


「小さな確率を探るための第一歩が実は非常に大きいのです。一歩を踏み出した後は、実際のデータをAIに学習させ精度を上げていくことに集中すれば良いのです。また、AIの導入は外部のシステム開発などの専門企業に任せて開発すればそれで終わりではなく、そこからが始まりなのです。AIを導入してからもPDCAを回し、自社と専門企業などが共同して改善していく必要があります。その際に、自社がディープラーニングをよく理解していれば、改善のスピードは一気に加速するでしょう」
(岡田隆太朗氏)


AIの導入には、大きなコストを必要とする場合がほとんどです。たとえば、AI専門のエンジニアは、一般のエンジニアと比べ倍ほどの人月単価となることが考えられます。さらにコストは開発のみではなく、運用においても発生するのが一般的です。このコストが膨らむ要因として、開発に時間がかかり過ぎてしまうことや、AIを導入してもいまいち機能せずに中長期的な改修が繰り返されてしまうことが考えられます。しかし、これらの要因の多くは自社が、AIを導入する事前にAIを学習し、理解していることによって回避することができるでしょう。

 

*1:G検定

ディープラーニングを活用する人材(ジェネラリスト)の育成を目的とした、JDLAが提供している検定・資格制度。他にもディープラーニングを実装する人材(エンジニアなど)の育成を目的とした「E資格(エンジニア資格)」もあり、試験はオンラインで実施(自宅受験)。現在の合格者数は4万人以上に上っています。

*2:GAFAM

Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5社の頭文字を取った通称。

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