2024.11.22
デジタル化すべき領域の“的確な切り分け”が重要だ
【中小企業の“分岐点”】#2 アセットフロンティア株式会社〈小売・卸売業〉
ハラルに対応した日本食品の輸出事業やラーメン店の運営を手掛けるアセットフロンティア株式会社(以下、同社)は、自社でアプリを作成できるノーコードツールを導入し、大幅な省力化と、業務属人化からの脱却に成功した。だが、「デジタル化がすべてではない」と言うのが、同社の執行役員である宮島一人氏の考えだ。輸出部門を統括する宮島氏はシステム導入を経験する過程で、“デジタル化すべき領域と人が担うべき領域”とを的確に切り分け、有効な領域でのデジタル化を進めることの大切さに気付かされた。
【当時の課題】
商品アイテム数の急増や属人的な受発注業務により従来のやり方に限界
アセットフロンティア株式会社は2014年、ハラル(イスラム教で許されていること。飲食の分野では豚肉やアルコールの摂取禁止などが挙げられる)対応ラーメン店の運営で創業した企業。2019年には専門機関から「ハラル認証」を得たインスタントラーメンを開発し、マレーシアの日系大手ディスカウントストアで販売を始めた。それがきっかけで、2019年以降は日本国内で製造されたハラル食品の輸出事業が主軸となった。
同社は当初、Excelを使って輸出業の受発注業務を管理していた。しかし、商品のアイテム数が急増したことでExcelでは対応しきれなくなった。
「当時の問題点は2つありました。1つ目は、受発注の管理が煩雑だったことです。ハラル食品だけを取り扱っていた頃のアイテム数は、せいぜい300くらいでした。ところが、ハラル非対応の食品も手掛けるようになってからは1000アイテム以上に増え、処理が煩雑になりました。また、受発注業務を管理するExcelファイルと発注事業者を管理するExcelファイルとが連携していなかったため、手打ちで再入力するデータが多くなり、ミスが発生しがちだったのです。さらに、特定の商品の情報を探したいとき、膨大な商品リストから目的のデータを見つけるのにも手間が掛かっていましたね。 そして2つ目の問題は、受発注業務が属人的だったことです。当時は、各営業職が担当顧客の情報を独自のやり方で、各自のExcelファイルに記録していました。そのため、営業職が外出中に問い合わせがあった場合、個別のExcelファイルを開いて取引の状況をいちいち確認しなければならない点も課題でした」(執行役員・宮島一人氏)同社は受発注業務の自動化や、経理システムとも連携させたバックオフィス業務の効率化を図りたいと考えていた。そんな時、「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業(現DX推進支援事業)」の案内を受けた。
「手作業で行っていた受発注業務を自動化し、経理システムとも連携させてバックオフィス業務の効率化を図りたい。また、全営業職が同じやり方で受発注を管理できる“標準化された仕組み”を整えたい。そう考え、アドバイザー支援をいただきながら新システムの導入を目指すことにしました」【導入時の気づき】
導入決定時にはシステムの使い勝手だけでなく、保守・機能改定・運用体制も重視
宮島氏はアドバイザーと協議を重ね、まずは当時の受発注業務を見直した。そして、業務フローに潜む問題点を洗い出し、営業職が担当すべき業務内容を具体的に定めてから、3つの開発会社にシステムの提案依頼書を作成し、見積もりを依頼。この中から宮島氏が選んだのは、プログラミングの知識が乏しい人でも独自のアプリを作れるクラウドサービス「kintone」(以下、ノーコードツール)をカスタマイズしたシステムを提案したA社だった。
「決め手は2つありました。1つ目は柔軟性の高さです。当社が輸出業に進出したのは、ほんの数年前。近い将来、事業の急拡大によって事業内容や経営環境が大きく変貌する可能性も想定していました。プログラミングとは無縁の私たちでも、自分たちに必要な機能をその都度、追加開発・活用できるノーコードツールは魅力的でしたね。 もう1つの決め手はサポート体制でした。システム導入直後に開発会社からのサポートが不十分だと、自分たちで運用方法を学ばなければならず大変な労力がかかります。その点でA社は、使い方のレクチャーや保守運用・アプリの機能追加といったサポートを、導入から1年間にわたって提供する提案をしてくれました。システムを導入する際には機能や使い勝手だけでなく、導入後の保守・運用体制まで含めて検討すべきだと思います」 このノーコードツールは、プログラミング無縁の人でも、顧客管理や進捗管理といったアプリを自ら改変・新規開発できるのが売り文句。ただし、全くの初心者がいきなりアプリを作るのはかなり敷居が高い。そこで宮島氏はA社に、アプリの保守・運用、機能開発、改変方法の講習会開催を依頼した。 「A社の担当者が来社し、1時間ほどのレクチャーをしてもらいました。私は何とか使いこなせそうだと感じたのですが、社員の中には、使い慣れないシステムの導入を嫌がった人もいたと思います。ただ、1カ月もすると誰もがスムーズに使いこなせるようになり、反発は消えていきました。 さらに時間が経つと、自分で機能を追加できるメリットに皆が気付きはじめました。入力画面に新項目を追加する、あるいは足りなかったアプリを新たに追加するなどの工夫をすることで、仕事を一層やりやすくできると分かってきたのです。その結果、業務効率はさらに高まりましたし、社員のモチベーションも高くなったと感じます」【導入効果】
受発注処理と経理処理の業務を月30時間削減!属人化の問題も改善
システム導入前は、全営業職が受発注処理に約48時間/月かかっていたという。しかし導入後は、処理時間がほぼ半分にまで減った。また、以前は経理担当者が月末の請求書処理に月6時間かけていたが、これも同様に半減した。今回のシステム導入により、全社で月30時間分の業務が削減され、省力化できたのだ。システム導入にかかった費用は約1年で回収できる見込みだ。
また、属人化の問題も大きく改善できた。全社員が同じノーコードツールを使って仕事を進めるようになったことから、業務の標準化が進んだ。 「最近、女性社員の1人が産休に入ったのですが、とてもスムーズに引き継ぎを済ませていました。以前ならExcelのリストをすべて開いて、この顧客はどう、この商品はこうと全て確認しなければならなかったのですが、今はすぐに業務の引き継ぎもできるようになりました」 さらにノーコードツールを使えば、どの商品がどの国でどのくらい売れているのかを、素早く正確に把握することが可能だ。蓄積されたデータは、マーケティングにも応用できる。 「以前は商品ごとの売上高を、大まかにしか把握できていませんでした。ところが今は、アプリの画面を見れば売り上げが一目瞭然です。データを確認し、想定外の商品が想定していなかった地域で評判になっていることに気付くこともあります。 人間の感覚とデータとの間にはギャップがあり、時に思いもよらない気づきが得られます。正確なデータによって『多分、これが売れているのだろう』という思い込みから解放されれば、新規ビジネスの創出にも大いに役立つのではないでしょうか」 飲食業界には、人の感覚に頼った経営体制の企業が少なくない。しかし、人手不足や原材料費の高騰などが続く中、飲食業界こそデジタル化への取り組みが功を奏すると宮島氏は力説する。今後は輸出業で培ったシステム活用のノウハウを、飲食分野にも広げていく方針だ。 「ラーメン店の中には、いまだに食券の自販機を置くなど旧態依然とした仕組みのところが少なくありません。タッチパネル注文の導入をはじめとした業務効率化は、今後もさらに進める必要があります。ただ私たちは、すべてデジタル化すればいいとは考えていません。当社がお店で提供しているのはハラル認証ラーメンですから、イスラム文化の香りがするスタッフがいない店内だと違和感が生じてしまうでしょう。厨房や接客スタッフにイスラム圏の人がいて、気持ちを込めて料理を作っている様子が垣間見られれば、お客さまも安心してくれるのです。 大事なのは、“デジタル化による効率化を目指す領域と、あくまで人が担うべき領域をきちんと的確に切り分ける”こと。そして、ある領域ではデジタル化によって徹底した効率化を図り、別の領域では人による温かみのあるおもてなしを提供することが大切だと、私たちは考えています」- 成長企業にはノーコードツールのように自力で改変しやすいシステムが向く
- システム導入時には保守・機能改定・運用場面を、含めて検討すべし
- デジタル化すべき領域と人が担うべき領域を的確に切り分けよう
企業情報
- 社名
- アセットフロンティア株式会社
- 所在地
- 東京都港区芝大門2-6-6 VORT芝大門801
- 設立
- 2014年
- 事業内容
- ハラル対応飲食店の運営、食品輸出業、広告業など
- 資本金
- 4,750万円
- 従業員数
- 80名(2024年9月現在)