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2025.01.31

業務の“見える化”で業務改善を図り利益向上を目指す

【中小企業の“分岐点”】#4 株式会社NACAMURA〈製本業〉

株式会社NACAMURA(以下、同社)は、印刷会社から納品された印刷物に断ち・折り・抜き・綴じなどの加工を行い、1つの冊子にまとめる「製本業」を営む企業だ。印刷需要が落ち込み、小ロット案件が増えるなかで同社が進めたのは、IoTに対応した製本機器を導入することでさまざまなデータを収集し、それを新たな生産管理システムと連動させること。機械の稼働率や消費電力量などを記録することで、同社の業務にはどのような好影響が現れたのだろうか。

代表取締役の中村洋平氏は2018年に実父から経営を引き継いで以来、さまざまな改革を進めてきた

【当時の課題】
職人の勘だけに頼るのをやめ、機械稼働率を向上させたかった

同社は1953年に創業され、現在は3代目経営者の中村洋平氏が率いている製本会社。他社では対応が難しい難易度の高い加工を得意としており、多くの顧客から信頼されている。

矢野経済研究所が2020年に行った調査によると、同年における印刷業界の市場規模は約3兆円。ピーク時の1991年(約9兆円)に比べると、3分の1程度に縮小した。中村氏は製本業を含む印刷業界全般の需要が落ち込んでいることに危機感を覚えているが、自社の未来は決して暗くないとも考えている。 「紙に印刷されていた冊子や書籍、チラシなどが盛んにデジタル化されている昨今、製本業へのニーズは小さくなっています。ただ、デジタルより紙の方が優れているケースは確実にあります。業界規模は今後も縮小するかもしれませんが、印刷業界は引き続き存続していくはずです。また私自身も、印刷業界全般が盛り上がるよう一役買いたいと思っています。 私が製本業界に入った2015年当時は国内に約1500社の製本会社がありましたが、今は半分以下まで減りました。業界規模が小さくなるよりずっと早いペースで企業が淘汰されているわけです。一方、製本業界で創業するにはかなりの設備投資が必要ですし、熟練の技術者も欠かせませんから、新規参入がしづらい特徴があります。うまく舵取りをしていけば、自社のパイを増やすことは十分に可能だと考えています」 上記の言葉のとおり、中村氏はいくつかの手を打ってきた。例えば、企画会社やイベント会社といった新たな取引先を開拓したり、自社サイトをリニューアルして紙や製本業が秘めるポテンシャルの大きさを伝えたりしている。そして2022年から着手し始めたのが、IoT(Internet of Thingsの略。さまざまなものをインターネットに接続して活用すること)に関する取り組みだ。 「IoTを取り入れたいと思った理由は2つありました。1つ目は、仕事の質を高めるのに役立つデータをしっかり取りたいと思ったからです。製本の仕事は職人技の世界で、紙の種類や厚さはもちろん、加工日の気温や湿度などの条件が変わるごとに細かな対応が必要です。ただ、いつまでも職人の勘だけに頼るのでは進歩がありません。そこで、センサーで機械の稼働状況や作業工程などを記録し、気候条件などと照らし合わせることで、業務改善や稼働率向上につながるヒントを得たいというのが狙いでした。 2つ目の理由は、お客さまにリアリティのあるデータを提供するためです。製本業界では昔から『どんぶり勘定』が珍しくありませんでした。例えば、電気料金の値上がりを理由に製本代アップを求める場合、かつての当社は根拠となるデータを示さず、何となくこのくらいと値上げ額を決めていたのではないかと思います。でも、こういうやり方は古い。これからは機械の消費電力量など裏付けとなるデータを記録し、それに基づいて交渉することでお客さまからの理解を得るべきだとも考えました。 こうしたことから、既存の機械にセンサーを組み込む、あるいは、元からセンサーを内蔵している最新鋭の機械を導入することに決めました。ただ、私ひとりで進めると、計画が独りよがりになる危険性があります。そこで、以前から付き合いのあった東京都中小企業振興公社に連絡し、『生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業()』を利用することに決めました」  令和4年度時点の事業名で、現在(令和6年度)は「DX推進支援事業」で同様の支援を実施

【導入時の気づき】
システムや機械の導入時には、現場での使いやすさを重視すべし

中村氏が公社から派遣されたアドバイザーと初めて面談を行ったのは、2022年6月のこと。それから2年間にわたり、月1回ペースで来訪を受けた。議題はIoTだけでなく、旧式化した生産管理システムの更新など多岐にわたった。

「最初の1年間は、当社が抱える課題や業界を取り巻く状況などをお伝えし、改善策を提案いただくのがメインでした。続く2年目は、より現場に即したご提案をいただきました。アドバイザーの方にセンサーの見本を持参してもらい、当社の機械に取り付けてどのようなデータが取れるのか実験したのは、懐かしい思い出です」

アドバイザーが作成した業務プロセスの改善案。IoTと連携した生産管理システムの導入が提案されている

アドバイザーと話し合いを重ねた末、同社はIoT機能を搭載した2台のドイツ製最新鋭機械を導入した。一方の「断裁機」は約1600万円、もう一方の「折り機」は約2800万円という高額投資だ。新しい機械は操作性が大きく変わらないことを意識し、元の機械と同じメーカー製の機種を選択。そのため従業員の戸惑いや反発もなく、入れ替えはスムーズに進んだという。

「断裁機や折り機の導入にあたっては、追加のデータをいくつか取れるようカスタマイズしました。例えば断裁機では、切った印刷物の厚みを記録できるようにしています。印刷会社から印刷物を受け取る際、書類上の部数と実際に納品された部数が食い違うケースがまれにあるのですが、以前は全ての加工が終わってから完成品が予定数に達していないと判明し、そこで初めて納品された印刷物が足りなかったとことに気付いたものでした。でも、印刷物の厚みをカウントしておけばおおよその部数が分かりますから、そうした混乱を避けることができるのです。こうしたアイデアも、アドバイザーとの打ち合わせを通じて生まれました」

BEFORE。これまでは、印刷会社から納品された印刷物をそのまま断裁。事前に印刷物の不足を把握する手段がなかったため、段最後に部数が足りなかったことに気付いてトラブルになったこともあった。AFTER。新たな断裁機を導入してからは、印刷会社から納品された印刷物の厚みを断裁前に計測。部数不足を機械的にチェックできるようになり、早めに顧客に伝達することでトラブルを減らせた。

また既存の機械には、センサーを組み込んでデータを取ることにした。メーカーや形式、導入時期も千差万別だった機械から取得したデータを、同じシステム上で集約するのは簡単ではなかった。しかし、光センサーや電流・電圧センサー、温度・湿度センサーなど幅広いセンサーに対応できる生産管理システムを新たに採用。自社向けにカスタマイズした上で、老朽化が目立ちエラーが頻発していた古いシステムと入れ替えて対応した。

「ハードウェアに比べると、生産管理システムの入れ替えはハードルが高かったです。特に最初の頃は、システム開発会社との意見すり合わせに苦労しました。製本は工程が多く、複雑に絡みあっているので、設計が非常に難しかったです。そのなかで分かったのは、システム開発会社に“現場の動き方を分かってもらうこと”の大切さでした。一方で従業員側にも、システムの操作法に合わせようとする姿勢が必要だとも感じます。そうして双方が歩み寄ることが、より良いシステムを育てることにつながるのでしょう。 なお、開発会社を選ぶ際には“若い会社かどうか”を重視しました。若手エンジニアが多く経営層も若い企業なら新たな技術を吸収しやすいでしょうし、これから当社と一緒に成長し、長きにわたって社内インフラを支えてもらえるだろうと考えたからです。さらに、開発担当者が直接来社して打ち合わせをするようなベンチャー気質の企業の方が、縦割り型組織の古い企業より仕事がしやすいとも考えました」

最新鋭の断裁機(写真左)と折り機。自社の状況に合わせ、追加データを取得できるようカスタマイズした

【導入効果】
生産状況の見える化が実現! 顧客からの信頼も得られた

最新鋭機械の導入と生産管理システムの刷新には、トータルで6000万円以上がかかった。年商2億円前後の企業にとって、かなり勇気のいる投資だ。

機械や生産管理システムの導入効果は、大きく分けて2つある。1つ目の効果は、最新鋭機械によって段取り時間や作業効率が改善され、顧客からの信頼向上をもたらしたこと。2つ目は、生産状況がリアルタイムで把握できるようになり、細かなタイムロスが減ったことだ。例えば、以前は進捗確認のために1日10回程度内線電話をかけ、その都度、機械が15分程度止まっていたが、これがゼロになった。また、夕方に発送したい製品の準備が後回しにされ、定時後に慌てて製品を探して箱詰めをすることもなくなった。自分の仕事以外も見える化されたことで、会社全体の仕事がスムーズに流れるようになったのだ。 「今後は、IoTによって取得したデータを、さらに活かしていきたいです。新しい機械や生産管理システムの導入からまだ間もないのですが、長い目で見れば、データによって私たちの仕事の進め方は大きく改善されるでしょう。また、お客さまにもより良い価値を提供できるだろうと確信しています」 企業がデジタル化に取り組む場合、プロジェクトチームを作って進めるケースが比較的多い。しかし同社の場合、基本的には経営者である中村氏が大きな役割を担った。社長業で多忙ななかで大きなパワーを注いだのは、デジタル化に取り組まなければ会社が潰れるからだ、と中村氏は言い切る。 「デジタルは現代の企業にとって屋台骨です。1日でも止まったら会社は回らなくなりますし、この先、どうやって進んで行けばいいのかも分からなくなってしまいます。経営者の仕事は、経営方針の立案、営業、広報、人材採用・教育などたくさんありますが、デジタル化への取り組みは最優先事項ではないでしょうか」 中村氏は、自社サイトの更新やSNSでの情報発信なども自ら担当。情報感度が高く、企画力や行動力も持ち合わせている経営者だ。だがそうした中村氏でも、アドバイザーによる支援がなければ、ここまでスムーズにデジタル化を進められなかっただろうと振り返る。 「社長の仕事は先の見えないなかでも会社の方向性を定め、決断することです。そして、その決断の責任は自分自身で取らなければなりません。そんなとき、豊富な知識を持つアドバイザーに伴走してもらえたのは心強かったですし、自分の選んだ道が間違っていないと自信も持てました。また、アドバイザーの方とお話したり文書を提出したりするなかで、自分の頭を整理できたのも良かったです。アドバイザーとの対話を通じ、自社の将来像やこれから挑戦したい取り組みが固まれば、そこを出発点として前に進むことができます。 当社が利用した『生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業』を始め、公社のサービスは意外と敷居が低いものです。まずは気軽に問い合わせをしてみたらいかがでしょうか。そこから、会社が大きく動き出すかもしれません」

【中村氏の気づき】


株式会社NACAMURA代表取締役 中村洋平氏
  • 現場社員の使い勝手を軽視したシステム・機械の
    導入は失敗しやすい
  • システム開発会社に“現場の動き方を分かってもらうこと”が大切
  • アドバイザーは先の見えない決断を支えてくれる
    心強いパートナーだ

企業情報

社名
株式会社NACAMURA
所在地
東京都墨田区東駒形4-6-3
設立
1953年
事業内容
商業印刷物の製本事業、特殊折り加工、各種断截など
資本金
1,000万円
従業員数
20名(2024年12月現在)