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2024.12.20

正確なデータの収集が“正しい経営判断”をもたらす

【中小企業の“分岐点”】#3 大関ジョイテック株式会社〈小売・卸売業〉

ねじの専門商社である大関ジョイテック(以下、同社)は全5拠点を展開し、1万種類を超える製品を幅広いメーカーに供給している企業だ。以前の同社には全社の在庫を一括管理する仕組みがなかったため、調達担当者は他拠点の在庫状況が分からない中、勘を頼りに発注を行っていた。その結果、どうしても在庫が過剰になってしまうことが多かったという。こうした状況を打開し在庫を適正レベルに抑えるために、同社は業務フローとその管理方法の改善に乗り出した。

代表取締役社長の関 重德氏(写真右)と、デジタル化の取り組みを主導した専務取締役の関 太彬氏(写真左)

【当時の課題】
全社の在庫を一括管理できる仕組みがなく過剰在庫を抱えがちだった

同社は1948年、現在の代表取締役社長である関 重德氏の父・芳之助氏によって設立された企業だ。ねじ製品にはJIS規格に準拠した「一般ねじ」と、顧客からの要望に応じて作られる「特殊ねじ」とがあるが、同社が主に販売しているのは特殊ねじ。長年の経験によって培われた高いコンサルタント力と、全国のサプライヤーと結んだネットワークを活かし、顧客ニーズに最適な製品を提供して各業界を支えている。

「コンサルタント力や供給網に加え、品質第一の経営方針によって積み上げてきたお客さまとの信頼関係が当社の強みです。全社員が一丸となり、お客さまの役に立つことを目指しています。 従業員が仕事にやりがいを感じられる点も、強みの1つと言えるかもしれません。当社では依頼された製品をただ納めるだけでなく、顧客の生産ライン担当者と直接コミュニケーションを取りながら最適な製品を見出し、提案していきます。自分が手掛けた製品がどう社会に役立っているか実感しやすいため、当社の従業員は生き生きと働けているのではないかと自負しています」(重徳氏)

大田区西蒲田にある本社。神奈川県藤沢市、横浜市、厚木市、熊本県熊本市に拠点を置いている

同社では以前から、在庫の管理方法に問題を抱えていた。当時は全拠点の在庫を一括して管理する仕組みがなく、各拠点の調達担当者は他拠点にどのくらいの在庫があるのか分からなかった。そのため、調達担当者は欠品を避けようと適正数より多めに調達しがちで、それが過剰在庫につながっていたのだ。また、ある拠点では紙に書き込んで在庫を管理しているのに別の拠点ではExcelを使うなど、在庫の保管・管理方法は拠点や担当者によって異なっていて、担当以外の人が在庫を確認しようとすると余計な手間がかかっていた点も課題だった。そこにコロナ禍が襲いかかったことで、事態は一気に深刻化した。

「新型コロナウィルスの感染拡大で生産や物流が混乱し、製品の入荷時期や需要が予測しづらくなったため、各拠点の一部の調達担当者はさらに多くの製品を確保しようとしました。その結果、在庫が過剰に積み上がって利益率が悪化し、在庫確認や期末の棚卸し作業の手間も膨らんだのです。また経営層としては、担当者の経験と勘に頼った調達手法も変えたいと思っていました。在庫に関わる正しいデータを取り、それに基づいて発注を行うことで適正な在庫水準を保ちたいと、かねてから考えていたのです」(重德氏) 在庫管理に関する課題感が大きくなるなか、状況が大きく進展したのは2022年のこと。大手航空会社グループで経験を積んだ太彬氏が入社し、改革に乗り出したのだ。 「在庫管理に課題があると知り、私は解決方法を模索しました。そんな時、『生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業()』の存在を知り、公社のご担当者に連絡を取ったのです。デジタルの知識には自信がなかったため、ハードルの高さを多少感じていたのですが、ご担当者から『せっかくの制度ですので、ぜひ積極的にご活用ください』と言われて安心したのを覚えています」(太彬氏)  令和4年度時点の事業名で、現在(令和6年度)は「DX推進支援事業」で同様の支援を実施

【導入時の気づき】
まず自社業務の全体像を再確認し、その上でどこをデジタル化するか検討すべし

同社は公社から派遣されたアドバイザーと共に、デジタルによって業務を改善するための取り組みを開始した。最初に行ったのは、当時の業務フローを改めて確認することだったという。

「当時の私は入社して間もない時期でしたが、仕事の流れを頭では理解しているつもりでした。でも実際にフローチャートを描いたことで初めて、業務のどこに課題があるのかが具体的に浮かび上がってきたのです。例えば、以前の当社ではお客さまに納品するタイミングでシステムに案件情報を登録していたのですが、受注時に情報をシステムに入力し、それを使ってサプライヤーへの注文書や顧客への納品書を出す方がずっと効率的だと気付けました。 一部業務のデジタル化を急ぐのではなく、まずは“自社業務の全体像を再確認すること”。その上で、業務フローをどう改善すれば良いのか、そこにデジタルをどう活用するのかという順序で考えるべきなのだと、アドバイザーの方から学びました。おかげで、『木を見て森を見ず』という状況に陥らずに済んだのだと思います」(太彬氏)

いきなり業務の一部分だけに焦点を当てず、全体を見据えて課題を発見し、その解決法の1つとしてデジタル化を検討した

業務フローの中で改善すべき点が見えてきたところで、同社はプロジェクトチームを結成した。社長の重德氏がプロジェクトオーナー、専務の太彬氏がプロジェクトリーダーとなり、本社・藤沢・横浜・厚木・熊本の各拠点からメンバーを集めた。

「最初の1年間は、それまで手書きで作成していた納品書をデジタル化するところから検討を始めました。そのため初期のプロジェクトチームは、各拠点で納品書の入力を担当していたメンバーだけに絞ったのです。そして2年目に入り、営業や仕入れといった業務のデジタル化を検討する段階に入ってからは、各拠点の営業担当者と仕入れ担当者、倉庫管理担当者にも参加してもらいました。各現場で実際に仕事をしている人の意見を聞かなければ本当に役立つシステムは完成できないと思ったため、このようなやり方を採用しています」(重德氏)

納品書の入力や調達などでシステムを使う人の意見を取り入れることで、“本当に現場を助けるデジタル化”を目指した

プロジェクトチームはアドバイザーを交えて議論を重ね、当時の業務フローに潜む問題点と、それらの解決策を抽出。その上で2023年3月、約30年前に同社の基幹システム開発を担当するなど普段から付き合いのあったベンダーA社に要望を伝え、開発を依頼した。

「このとき、別のベンダーに開発を依頼したり、既存のクラウド型サービスを利用したりすることも検討しました。ただ、システムの入れ替えによって業務が長期間停滞したり、現場担当者が操作に戸惑ってシステムを使わなくなったりするのは避けたかったのです。そこで、社員が慣れ親しんでいた既存システムに新たなシステムを組み込むことに決めました」(太彬氏) システムがいったん完成したのは2023年11月。そこから1カ月半ほどのテスト期間を設け、現場の社員に試用してもらって感想を聞いた。それらを各拠点のプロジェクトメンバーが集約し、太彬氏がベンダーと交渉してシステムをさらに改善。それと並行して、重德氏と太彬氏やプロジェクトメンバーが各拠点の従業員に、システム更新の背景や使いこなしのポイントなどを説明した。それによって、新たな仕組みに抵抗を覚えていた現場の従業員も、十分納得した上でシステムを受け入れたそうだ。 そして2024年1月、システムは本格稼働。十分なテスト期間を用意し、その間に各拠点から寄せられた要望をできるだけ盛り込んだおかげで、導入はスムーズに進んだ。 「ただプロジェクトの途中では、現場から厳しい意見も出ていました。時には『こんなシステムを導入するのは無理だと思います』などと、強い反発を受けたこともあります。そんなとき、アドバイザーから冷静な意見をいただけたのが心強かったです。何しろアドバイザーの方は、さまざまな現場を経験されているプロフェッショナル。当社の事情に合わせた具体的な助言によって不安が払拭されたことが、何度もありました」(太彬氏)

【導入効果】
在庫適正化で利益率約3%アップ!納品書発行と発注の作業時間は月130時間以上減少

当初目指していたように、デジタル化によって全社の在庫状況がどの拠点からも確認できるようになった。そのためムダな調達は大幅に減り、システム導入後の利益率は導入前に比べ約3%改善された。また、以前は約130日だった在庫回転期間も、100日程度に短縮できた。

デジタル化は、作業効率アップにも役立っている。以前は月170時間程度かかっていた納品書の発行作業は、月100時間程度に減少。同じく月25時間程度かかっていた発注作業も、17時間程度に減少した。また、システム上で別拠点の在庫がすぐ確認できるようになったため、電話やファックスによる別拠点への確認作業も月60時間程度減っている。これだけでも、導入した意義があったと感じているそうだ。

在庫管理をデジタル化し既存の社内システムに組み込んだことで、全社の在庫状況が確認できるようになった

このように、デジタル化によって在庫の適正化や業務効率化が実現できた。そしてそれ以上の効果を期待できるのが、さまざまなデータが蓄積されることで、担当者も経営層もより正しい判断を下しやすくなったことだという。

「以前は、『何となく売れている気がする』などのあやふやな根拠で発注するケースが少なくありませんでした。ところが今は、調達担当者がデータに基づいて適正な発注を行えています。また私たち経営層も、データの裏付けをとった上で経営判断を下せるようになりました。これから1年、2年とさらに多くのデータを集めていけば、さらに正確性は増していくはずです」(重德氏) 「せっかくデジタル化を進めたのですから、今後もデータ活用には積極的に取り組んでいきたいです。また、AIなどのテクノロジーも活用しながら、当社の良さを活かしつつ業務効率化を実現したいとも考えています。今の経営者には世の中に広くアンテナを張り、情報を柔軟に受け入れる姿勢が求められるのではないでしょうか。新技術の全てを追いかける必要はありませんが、好奇心を持ち、今後伸びそうなものを積極的に取り入れるのも、リーダーシップの1つだと考えています」(太彬氏)

【関重德氏と太彬氏が気付いたこと】


大関ジョイテック株式会社代表取締役社長 関 重德氏、専務取締役 関 太彬氏

大関ジョイテック株式会社代表取締役社長 関 重德氏、専務取締役 関 太彬氏

  • デジタル化を急ぐ前に、まずは自社の業務全般を
    見つめ直そう
  • 現場とのコミュニケーションを密にすればデジタル化の混乱は減る
  • 正確なデータを集めることで“正しい経営判断”が
    下しやすくなる

企業情報

社名
大関ジョイテック株式会社
所在地
東京都大田区西蒲田8-14-8
設立
1948年
事業内容
各種ねじの販売および加工
資本金
5,000万円
従業員数
50名 パート・アルバイト含む(2024年9月現在)