2025.09.12
AIチャットボット導入でECサイトの売上が17%アップ!
【中小企業がDXで描く“未来”】#1 有限会社さかつう〈小売・卸売業〉
有限会社さかつう(以下、同社)は、さまざまな風景を模型などで再現する「ジオラマ」の専門企業。実店舗に加えてECサイト「ショップさかつう.com」を運営しているが、近年は顧客からの問い合わせの増加に伴い対応時間が増え、さらに、メールでの応答に時間をかける間に顧客の購入意欲が冷めて受注を逃がすケースも多かった。そこで導入したのが、人工知能(AI)を活用した自動会話プログラム、つまりAIチャットボットだった。

顧客からの問い合わせ業務の省力化・スピードアップを図りたかった
1975年に初代代表である坂本憲二氏が鉄道模型の通販業「坂本通販」として興したのが、同社の始まりだ。1977年、豊島区巣鴨で「さかつう」として実店舗を構え、2008年からジオラマ専門店「さかつうギャラリー」にリニューアルオープン。2014年には憲二氏の息子で現代表を務める直樹氏が経営を引き継ぎ、「ショップさかつう.com」を軸にしたECサイトの拡充を行ってきた。
「お客さまの男女比は2対1です。最も多いのは40~50代ですが、小学生から80代まで幅広いお客さまがいらっしゃいます。 日本に模型を売る店はたくさんありますが、ジオラマに特化した専門店はおそらく当社しかありません。お店に来ていただいた方の多くは、『ジオラマの素材がこんなに揃っているお店は、他にないね』とおっしゃいます。それで当店には、ジオラマが好きな方が全国から集まってこられるのです」 唯一無二の存在として、ジオラマファンから頼りにされている同社。ECサイト「ショップさかつう.com」も、これまで順調に売れ行きを伸ばしてきた。だが近年では、Amazon.co.jpなど大手通販サイトとの競争が激化してきているという。 そうした中、坂本氏がECサイトの差別化要素として打ち出しているのが、“顧客に対する提案力”だ。 「ジオラマを作る際に、異なるメーカーから販売されている人形や建物、自然物などの素材を組み合わせるケースがあります。その時、例えば『人形のサイズ感が建物に比べて大きすぎて変だ』『地面の素材と建物の素材の風合いが違いすぎて違和感がある』などが起こり、うまくいかないこともあるのです。そこで私たちは、お客さまからのご相談に乗ったりいろいろなご提案をしたりすることで、競合との差別化を図っています」
顧客からの問い合わせはメールが中心で、1日あたり1~2件のペースで受けていた。簡単に答えられるものがある一方、内容によっては返答するのに30分近くかかるケースも珍しくない。また、やり取りのラリーが何日にも渡ることもある。
「例えば、『海の場面を作りたいんです』という漠然とした相談をいただいたとします。一口に海と言っても、のんびりした南の島と、寒風吹きすさぶ冬の日本海では大きく異なりますよね。そこで、お客さまと何度かメールを交換しながら商品を提案するのですが、これだとかなりの手間がかかってしまいます。また、やり取りに時間をかけるうちにお客さまの気持ちが冷め、購入につながらないこともありがちです。 お客さまに寄り添って提案できる点は、当社にとって大きな強みです。だから大切にしたい反面、手間と時間があまりにかかりすぎるのは厳しい。そこで、何か良い策はないかと以前から考えていました」 そんなときに登場したのがAIだ。坂本氏は以前から新しい技術に関心を持っていて、ChatGPTも登場から間もない2022年当時から遊びで使っていたという。そしてAIに触れる中で、これを仕事に役立てられないかと考えるようになった。 「いろいろな可能性を考える中で、お客さまとのやり取りにAIチャットボットを使えたらと考えました。ただ、アイデアが思い浮かんでも、どうやって実現したらいいのかが分かりませんでしたし、ある程度の予算も必要になりそうでした。そこで『デジタル 助成金』などの検索ワードで探したところ、公社の『生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業』※を見つけたのです。 この事業で一番魅力を感じたのは、『アドバイザー』から2年間にわたって支援を受けられる点です。AIを活用できるようになるまでには、ある程度の期間がかかります。ですから、経験豊かな専門家にずっと伴走してもらえる方が、成功の可能性が高まるのではないかと感じました」 ※ 令和4年度時点の事業名で、現在(令和7年度)は「DX推進支援事業」で同様の支援を実施AIチャットボット導入で「人にはできないこと」の実現が可能に!
坂本氏がアドバイザーと初めて会ったのは2023年5月のこと。それからは1カ月に1~2回のペースで、1~2時間程度の面談を行った。
「アドバイザーの方とお話した際の印象は、『こんなに素晴らしい専門家に、無料で相談してもいいの?!』というものでした。私たちが抱える課題をていねいに聞いていただいた上で、状況に合わせた提案をしてくださったのが本当にありがたかったです。公社に対してお堅いイメージを持つ人がいるかもしれませんが、先生の真摯さや親身な態度は、そうした先入観とは真逆でした」 坂本氏はアドバイザーから提案を受け、AIチャットボット(下画像参照)の導入を決断した。候補に挙がったサービスは2つあったが、顧客の購買履歴や好みなどを分析して最適な提案ができる点と、プログラミングの知識がなくても使える点が決め手となり、最終的に1つのサービスを選定。これにより、顧客からの問い合わせに対して24時間・365日の全てで即時の対応が可能になった。
AIチャットボットの導入にあたっては、あらかじめAIに商品情報を登録する必要があった。この段階で坂本氏を驚かせたのが、AIの画像分析能力だったという。
「下の図で示したのは、海外メーカーが作っているロックバンドの人形セットをECサイトに商品登録するケースです。 従来の商品登録では、自分たちで『バンド』や『楽器』などのキーワードを考え、商品説明欄に入力する必要がありました。お客さまの検索にヒットするようなキーワードをたくさん考えるのは大変ですし、その数が少ないとお客さまに商品を見つけてもらえないことがあります。例えば、音楽フェスのジオラマを作りたいと思ったお客さまが『フェス』と検索しても、私が商品説明欄に『フェス』という言葉を登録していなかったら、当社の商品には辿りつかず、商品提案の機会を失っていたのです。しかし、現在ではAIに商品画像を解析させることで、『フェス』や『ドラマー』、『ギタリスト』などたくさんのキーワードの自動生成が可能になりました。 さらに、AIは人間では思いつかないような切り口のキーワードも提示してくれるため、商品登録の効率が上がるとともに、より幅広くお客様に商品提案できるようになりました。このおかげで、お客さまはAIチャットボットにキーワードを打ち込むだけで、ご要望に沿った商品検索がかなり正確にできるようになったのです」
AIチャットボット導入後のECサイト売上高が17%アップ! 顧客からの問い合わせも増加
AIチャットボットが正式に稼働し始めたのは、2024年11月。この前後で、ECサイトの売上額はかなり上向きになったという。
「2024年8月から翌年7月までにおけるECサイトの売上額は、対前年比で17%増えました。物価上昇などの要因もありましたから全てがAIのおかげとは言い切れませんが、それでもこれだけの実績が上がったのは事実です」 メールによる問い合わせは、以前に比べると1~2割くらい減少。応答の手間が減った分だけ、店頭での接客やイベントの企画・立案などの業務に時間を充てることができた。一方、AIチャットボットを使ったコミュニケーションの量は、メールの減少分を大きく上回っていると坂本氏は語る。 「AIチャットボットによるやり取りは現在、月200~300件程度あり、お客さまからの問い合わせは以前よりグンと増えています。背景には、メールよりチャットボットの方が気軽に問い合わせやすいことがあるでしょう。当社の商品に興味を持っていただき、お客様からの問い合わせが増加したことは、大きな導入効果の1つだと言えると思います」 坂本氏は普段からテクノロジーに興味を持ち、積極的に情報を集めるタイプ。だが、アドバイザーの存在はやはり大きかったと語る。 「独力でDXを進めると、どうしても甘えたり間延びをしてしまったりする部分が出てきたと思うんです。その点、アドバイザーの方にはいい意味で『お尻を叩いていただいた』と感じます。定期的に面談を行い、そのたびに課題を出されて解決するうちに、自然とプロジェクトが実現に近づいて行きました。 もう1つ強調したいのが、支援していただくことで生じる責任感です。2年間無料でアドバイザー派遣をしていただいているので、DXをきちんと実現しなければと気持ちが引き締まりました。仮に公社やアドバイザーの方の支援がなかったら、導入するのに何倍もの期間がかかっていたでしょうね」 企業がDXを目指して公社の支援を仰ぐ場合、問題意識を明確にしてからプロジェクトに挑むことが大切だと坂本氏はアドバイスする。 「何となくDXを実現したいという目的で申し込むと、せっかくの支援もムダになる危険性が高いと思うのです。当社の場合、『より多くのお客さまに商品説明をしたり、商品提案の精度を高めたりしたい』という明確な課題がありました。だからこそ、公社の支援をうまく活用できたのだと感じます」
~AIの強みを生かしながら顧客満足度を上げていく~

企業情報
- 社名
- 有限会社さかつう
- 所在地
- 東京都豊島区巣鴨 3-25-13 クラブリーシュ1階
- 創業
- 1975年
- 設立
- 1988年
- 事業内容
- ジオラマ・ミニチュア・情景模型専門店の運営
- 資本金
- 1,000万円
- 従業員数
- 5名(2025年8月現在)