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2025.12.10

“3段階の業務効率化”で預かり匹数が1.5倍に!

【中小企業がDXで描く“未来”】#3 有限会社トリプレッタ〈サービス業〉

有限会社トリプレッタ(以下、同社)は、犬を預かって多様なサービスを提供する「わんこの保育園 パルコ・デル・カーネ」(以下、パルコ・デル・カーネ)を運営する企業だ。以前は、犬の預かり・返却の記録や連絡帳の記入といった業務を紙ベースで行っており、業務効率が上がらないことに悩んでいた。また、スタッフの働きやすさ改善や施設全般の安全対策なども課題で、デジタル化による解決を模索していたという。

有限会社トリプレッタ代表で、パルコ・デル・カーネの園長でもある高田由香氏
同社代表で、パルコ・デル・カーネの園長でもある高田由香氏。2006年の開園以来、たくさんの愛犬家・犬をサポートしている

紙ベースで進めていた業務をデジタル化して業務効率を高めたかった

パルコ・デル・カーネは、飼い主から犬を預かって幅広いサービスを提供する施設。食事を出したり散歩をさせたりするだけでなく、問題行動の改善や、他の犬とのコミュニケーション力育成まで行うのが、ペットホテルと大きく異なる点だ。

「約20年前、金融機関勤めだった私は多忙な毎日を送っていました。それで、時には愛犬を施設に預けなければならないことがあったのですが、当時はほとんどのペットホテルの預かり時間が10時~17時など限られていたのです。そこで、『ワンちゃんを長時間預かり、さらにしつけまでしてくれる施設があったらどんなにいいだろう!』と考えたのが、創業のきっかけでした。 今でこそ、私たちと似通ったサービスを提供するところが増えていますが、あの頃はしつけまでカバーするところはほとんどありませんでした。それで試行錯誤しながらサービスの質を高め、今ではたくさんの飼い主さまからごひいきにしていただいています」 同社のスタッフは、多くがドッグアドバイザーやドッグトレーナー、動物看護士などの有資格者だ。また、近年では高齢犬のケアサービスも提供するようになり、さらに多くの愛犬家から支持されている。

パルコ・デル・カーネでは、しつけや高齢犬のケア、マッサージや歯磨きといった幅広いサービス提供中の様子
東急田園都市線用賀駅からほど近いパルコ・デル・カーネは、しつけや高齢犬のケア、マッサージや歯磨きといった幅広いサービスを提供中

同社が抱えていた最大の課題は、多くの業務が紙ベースだったこと。例えば、当時は紙の「連絡帳」を使って飼い主とのコミュニケーションを図っていたのだが、愛犬がどう過ごしていたかしっかり伝えるため、1日当たりの書き込み量は決して少なくなかった。そのため、スタッフはかなりの時間を割いて連絡帳の文章を書いていた。

また、犬の登園・退園の時刻も紙で記録していて、それがトラブルにつながるケースもあったという。 「利用料金は預かり時間に応じて決まり、退園時に精算する仕組みなのですが、飼い主さまの主張する登園時刻と園が紙に記録した登園時刻が食い違うことが過去に何度かありました。こちらが時刻を書き間違えたのかもしれませんし、飼い主さまが登園時刻を勘違いした可能性もありますが、いずれにせよ手書きの記録だとどちらが正しいか確かめようがありません。また、こうしたトラブルが起きるとスタッフは『私のせいだったかしら?』と心配し、余計なストレスを抱えてしまいます。それで、登園時刻をデータとして正確に管理したいと考えるようになったのです」 同社は他にも、いくつかの課題を抱えていた。例えば、飼い主の都合によって普段とは異なる人が犬を引き取りに来た場合、スタッフ側は「この方に大事なワンちゃんを返していいのだろうか?」と悩むのだ。 「ワンちゃんは飼い主さまにとって大事な家族ですから、間違った人に返してしまったら取り返しがつきません。そこで、飼い主さまと預かったワンちゃんを正確に紐付ける仕組みが必要でした。 また、スタッフの安全を守る仕組みもほしかったですね。最近は荒っぽい犯罪がよく報道されていますので、皆さんに安心して働いてもらうには、防犯カメラなどを活用した対策も導入したいと考えていました。 そうした多くの課題を解決するため、5~6年前からデジタル化に興味を持つようになりました。ただ、私たちには独力でデジタル化を進めるだけの知識はありませんし、日々の仕事をこなすのに手一杯でもありました。それで、どうすればいいのか考えあぐねていた時、顧問の社会保険労務士さんから『東京都がデジタル化を支援する仕組みを提供していたはずですよ』と教わりました。それでネットで検索し、公社の『生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業』()の存在を知ったのです」  当時の事業名で、現在は「DX推進支援事業」で同様の支援を実施

数年前まで使っていた手書きの連絡帳
数年前まで使っていた手書きの連絡帳。飼い主からは大好評だが、書くのにかなりの時間がかかり、スタッフの負担は軽くなかった

現場の混乱を防ぐため“3段階”で進めたデジタル化

高田氏は2023年4月、「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業」に応募。それから1カ月に1回程度のペースで、公社から派遣されたアドバイザーと面談を重ねた。

「この事業で最も魅力的だったのは、専門家であるアドバイザーの方から助言をいただけることでした。私たちだけでやみくもにデジタル化を進めたとしたら、きっと失敗していたと思います。また、さまざまなデジタルツールの導入費用の1/2~4/5を最大3000万円まで助成していただけることも、私たちのような中小企業にとってありがたいことでした。 アドバイザーの先生は大手のシステム会社に長年勤めていた経験豊富な方ですが、上から指導するようなことは全くありませんでした。そして、『私は犬のことはよく分からないので、ぜひ教えてください。そして、この園にとって良いシステムを一緒に考えましょう』とおっしゃってくれたのが、とても心強かったです。また先生は、保育園や老人介護施設で使われているデジタル日誌システムを探しだし、連絡帳への応用を提案してくれるなど、私たちには難しい情報収集まで行ってくれました」 こうして高田氏は、アドバイザーと一緒にデジタル化への計画を練っていった。その結果、下図のように3段階に分けてプロジェクトを進めることを決めた。

デジタル化を3段階に分けたのは、全てを同時に進めると混乱が起きやすいと考えたからだ。新たなデジタル連絡帳や開錠システムなどを一気に導入すると、多くの業務を抱えるスタッフたちはパンクしてしまう。また、デジタル連絡帳や、顔認証を取り入れた開錠システムは、飼い主にも操作に慣れてもらう必要がある。それで、時間を十分にかけ、順を追ってプロジェクトを進めることにした。

2025年までにデジタル化を果たしたのは下記の通り。
    1. (1)顧客管理台帳
    2. (2)犬の管理台帳
    3. (3)24時間対応のネット予約システム
    4. (4)デジタル連絡帳
    5. (5)スタッフが記録する保育記録・引き継ぎ記録帳
    6. (6)顔認証を使った自動開錠システム
    7. (7)開錠システムと自動連携した登退園時刻記録システム
    8. (8)開錠システムと自動連携した料金の計算システム
    9. (9)飼い主と預かり犬を写真で照合するシステム
    10. (10)スタッフのシフト管理システム
    11. (11)防犯カメラを使った防犯システム
このように、たくさんの分野でデジタル化を行った。 「予想外だったのは、ほとんどの飼い主さまが新しい仕組みをすんなり受け入れてくれたことです。特に、顔認証で鍵を開けるシステムについては、顔写真の登録に拒否反応を示す方がかなりいるのではと身構えていました。ところが、ネガティブな捉え方をする人は全くいなかったのです。むしろ、登録する顔写真の撮影日に合わせて念入りに化粧をするなど、楽しんでくれる飼い主さまが多くてホッとしました。 ただ、顔写真の撮影は個人情報に関わることなので、慎重な対応が必要でした。そこでアドバイザーの先生に相談したところ、先生が『プライバシーポリシー』(収集した個人情報の収集・利用・管理手法を定めた文書)の作成方法をすぐにアドバイスしてくれたのです。これも、専門知識のない私たちには助かりました」

顔認証で鍵を開ける「スマートロック」と店外の防犯カメラ
顔認証で鍵を開ける「スマートロック」(左写真)と店外の防犯カメラを設置したおかげで、スタッフはより安心して業務に取り組めるようになった

システム開発の依頼先については3社から見積もりを取り、その中から園から近いシステム会社を選んだ。

「システム会社の選定で最も重視したのは、サポートの手厚さです。システムを実際に使い始めてから不具合や改善希望が見つかることは多いと、アドバイザーの先生から伺っていました。それで、親身にアフターケアをしてくれる企業の方が、のちのち安心できると考えたのです。その点、選んだシステム会社は『近所ですから、何かトラブルが起きたらすぐ駆けつけますよ』と言ってくれて、その信頼感が決め手になりました。また、見積もり内容・価格が妥当かどうかを私たちだけでは判断できなかったので、アドバイザーの先生からもご意見をいただいてから判断しました」

スタッフと顧客に安心感をもたらしたデジタル化

デジタル化によって最も改善されたのは、業務効率性だ。例えば、それまで手書きだった連絡帳は、スマートフォンの音声認識機能を使って記入する仕組みに変えた。その結果、犬にマッサージをしたりしながら、連絡事項を書き込むことができるようになったのだ。

犬のケアをしながら、音声認識機能を使って連絡帳に記入する様子
犬のケアをしながら、音声認識機能を使って連絡帳に記入する様子。こうした「細かなデジタル化」が、スタッフの負担を軽くした

他にも、開錠システムとPOSレジを連携させることで精算にかかる手間が減るなど、デジタル化によって多くの定型業務が省力化された。その結果、同社では1日当たりの預かり匹数が、20匹から30匹に増えたという。単純に考えれば、売り上げが1.5倍増える計算だ。

「登園でお預かりするのは、幼くてしつけが必要なワンちゃんから、自力での歩行などが難しいシニア犬までさまざま。そのため、スタッフ1人が面倒を見られる匹数には限りがあります。それが、省力化によってより多くのワンちゃんを預かれるようになりました。デジタル化以前の当社では、ワンちゃんのお世話という本業と、定型業務の比率が4対6くらいだったと思います。ところが今では、7対3、あるいは8対2くらいにまで改善しました」 省力化による効果は、預かり匹数の増加だけではない。定型業務に費やす時間が減ったおかげで、スタッフは歯磨きのやり方を学ぶなど、スキルアップに振り向ける余裕も生まれた。 さらに、デジタル化はスタッフの定着率にも大きなプラスをもたらしていると高田氏は語る。 「当社はもともと、スタッフが長く働き続けてくれる企業です。そして、業務のデジタル化や防犯システムの導入などが進んだ今では、スタッフが抱えるストレスはさらに軽減され、より働きやすくなったのではないかと思っています。 一方、デジタル化は飼い主さまからも好評です。飼い主さまの中にはご高齢の方もおり、そうした層はアナログなやり方を好むのではと予想していました。ところが、顔写真認証の導入などでワンちゃんの安全も保たれると説明すると、皆さま、受け入れてくれたのです。逆に、『当社は預けた犬を責任持って管理してくれている』と、より信頼につながっているようです」 高田氏は今後も、さらなるデジタル化に取り組む方針。その1つが、上図にも挙げた「経営情報への活用」だ。例えば、デジタル化によって得られたデータを活用し、事業全般の成功度を測る数値目標(KGI)や、それを達成するための中間目標(KPI)を定めて経営に生かそうと考えている。 「ただ、欲張って一気にやろうとするのはいけないと思います。私たちのような小さい企業が、普段の仕事もこなしながらデジタル化を進めるためには、優先順位の見定めが大切です。現場のスタッフときちんと話し合い、要望や余裕の有無などを見極め、どの改善から取りかかるのが最善なのかしっかり検討する必要があるというのが、デジタル化を進めて分かったことでした」

トリプレッタがDXで描きたい未来

~デジタル技術を人材育成にも役立てたい~


有限会社トリプレッタ代表。パルコ・デル・カーネ園長。高田 由香 氏

「ペット業界は、マニュアルづくりが難しい業界です。例えば、『ワンちゃんをマッサージする時は、この部位をこのくらいの力で押します』などとスタッフに教えたい時、どうやって教材にまとめればいいのか、いつも悩んでしまいます。

そこで将来は、映像を撮影してすぐにマニュアル化できるサービスを使えないかと検討しています。また、AIを組み込んだ『ロボット犬』が登場し、具体的な力の入れ加減を教えてくれる仕組みを作れれば、教育に役立つと思いますね。

今後はどの業界でも、人手不足がもっと深刻になるはずです。当社でも、いずれは外国人スタッフなど、コミュニケーションの敷居が高い方の採用を始めるかもしれません。その時に備え、教え方のデジタル化にも取り組めればと考えているところです」

トリプレッタがDXで描きたい未来
~デジタル技術を人材育成にも役立てたい~



有限会社トリプレッタ代表。パルコ・デル・カーネ園長。高田 由香 氏

「ペット業界は、マニュアルづくりが難しい業界です。例えば、『ワンちゃんをマッサージする時は、この部位をこのくらいの力で押します』などとスタッフに教えたい時、どうやって教材にまとめればいいのか、いつも悩んでしまいます。

そこで将来は、映像を撮影してすぐにマニュアル化できるサービスを使えないかと検討しています。また、AIを組み込んだ『ロボット犬』が登場し、具体的な力の入れ加減を教えてくれる仕組みを作れれば、教育に役立つと思いますね。

今後はどの業界でも、人手不足がもっと深刻になるはずです。当社でも、いずれは外国人スタッフなど、コミュニケーションの敷居が高い方の採用を始めるかもしれません。その時に備え、教え方のデジタル化にも取り組めればと考えているところです」

企業情報

社名
有限会社トリプレッタ
所在地
東京都世田谷区用賀4-31-18
設立
2005年
事業内容
犬の預かりやしつけ、各種ケアなど
資本金
300万円
従業員数
10名(2025年10月現在)