2022.11.01
ITツール導入前に、まずは自社の現状分析を!
営業デジタルシフトの正しい成功ステップとは
インターネットを活用したペーパーレス化や、実店舗に行かずとも商品を購入できるネット通販など、あらゆるものがデジタルシフト(デジタル化)しつつある現在。以前は営業マン個人の力量にかかっていた営業も、デジタルシフトすることが求められています。そこで、なぜ今営業のデジタルシフトが叫ばれているのか、また中小企業におけるその正しい導入方法とは?そしてその先に見据えるべきものは何なのか?
―― インサイドセールス(※) 及び営業改革支援コンサルタントの水嶋玲以仁氏にお話を伺いました。※インサイドセールスとは、メールやビデオ会議、電話などを用いて営業活動を行う手法。内勤営業とも呼ばれる。営業事務やテレフォンオペレーターとは異なり、これまでの営業の役割の一部を担う存在と言われている。
水嶋 玲以仁 氏(みずしま れいに)
プロフィール
- グローバル・インサイト合同会社 代表 インサイドセールス 及び 営業改革支援コンサルタント
東京都出身。北海道大学経済学部卒業。インサイドセールスの実務全般について、20年に及ぶ経験を持つ。
そのうち16年間は、世界有数のIT企業でBtoB及びBtoCのインサイドセールス、営業チームの発展と管理業務に携わる。(Dell で7年、 マイクロソフトで6年、Googleで3年) 。これらトップレベルのIT企業において、一貫して売上目標を上回り、営業チームを再編成し目覚ましいシナジーを生む結果を得る。
著書『実践・営業デジタルシフト』(日本経済新聞出版)『インサイドセールス 究極の営業術 最小の労力で、ズバ抜けて成果を出す営業組織に変わる』(ダイヤモンド社)など。
人手不足+コロナ禍で必要性の増す営業デジタルシフト
―― 今なぜ営業デジタルシフト(デジタル化)の必要性が叫ばれているのですか?
これまで日本の営業は、勘と根性と経験、いわゆる3Kと呼ばれるものに頼ってきました。つまり全部個人に属したものですね。
そういう能力のある人材がたくさんいる時代だったら、別にデジタルシフト(デジタル化)しなくてもいいわけですが、中小企業の悩みの多くは、後継者問題と人手不足。少子高齢化により、営業部門で活躍する人材が減っていることが問題なんです。
ITツールを導入する前に、まずやるべきは現状分析
―― ITツールを導入する前にすべきこととは何でしょうか?
まずITツールを導入する前に、「なぜ自社の製品やサービスは売れているのか?」もしくは「なぜ売れないのか?」の分析をした方が良いんですよね。
その結果、自社の製品やサービスに関して、「ポイントを押さえて正しい売り方をすれば、もっと売れるはず」と確信できるのであれば、ITツールを使って営業の再現性を高めることで、売り上げを伸ばすことができるようになるはずです。 デジタルシフトの大事なポイントは、現状分析とそれに合わせて施行方法を変えること。プロセスを変えるには、プログラムを組み換えないといけないし、ITツールを使うのであれば、そのツールのやり方に合わせないといけません。 例えばお菓子を作る工場に機械を入れたりするじゃないですか。職人がやっていたことを機械にさせるには、いろいろなプロセスを考えないといけない。それと同じです。最初のアイデアが間違っていたら、無駄なコストがかかってしまう。 ですから、現状分析をして「行ける」となってから、営業ソフト等のITツールを活用するというステップを踏むのが良いと思います。営業デジタルシフトのためには、「分業化」から
―― 実際に、営業デジタルシフトはどのように進めていけば良いのでしょうか?
営業デジタルシフトの鍵となるポイントは、営業プロセスの「分業化」と「標準化」、そして「顧客データを活用した営業活動」の3つです。
「分業化」は、営業のプロセスを、新規のお客さまを獲得するための「マーケティング」、実際に案件として成立させるためのアプローチを試みる「インサイドセールス」、見込みの高そうなお客さまに契約交渉をする「フィールドセールス」、それから契約後にアフターフォローをして、別のプロダクトを売ったり、次の契約更新につなげるための「カスタマーサクセス」の4つに分けます。 そして、それらの営業プロセスをITツールで行えるようにするというのが、デジタルシフトの大きなポイントになります。一人のお客さまに対し、最初から最後まで一人の人が対応するという、これまでの営業方法を大きく変える考え方です。 もちろん、分業せずとも全部できる人がいればいいのですが、野球で言うところの大谷選手のような人はなかなかいないわけです。みんなが「4番のピッチャー」を求めているわけではなくて、「先行して走る人」「守備がうまい人」など、それぞれ得意分野の異なる人材を入れて、組織全体でうまくやれればいいんじゃないですか、というのが分業化の考え方なんですね。 「営業プロセスの標準化」というのは、個人の独自性に頼ることなく、誰が担当しても、同じような売り方ができることを指します。 人が機械と違うところは、相手の表情や性格に合わせて言い方を変えることができる点ですよね。これまで営業と言えば、対人コミュニケーション能力の高い人が、「物を売るというより、自分を買ってくれ」みたいな世界だったと思います。 でも、現状はそういう人材が減ってきていますし、またそういう人も常に最高のパフォーマンスを発揮できるわけでない。要は50代、60代になってくると衰えてくるわけですよ。中小企業の方ってそういう問題が切実だと思うんです。勘と根性と経験だけに頼っていたら、標準化はできません。ですから、組織の誰もが一定以上の成果を生み出せるように再現性を高める必要があります。 標準化が進んでいる良い例としては、スポーツの世界が挙げられます。最近ですと仙台育英学園高校が甲子園で優勝しましたが、あれは最初から逸材を揃えたのではなく、「データを活用して優秀な人材を育てる」ということを実践した結果なんですよ。 昔、野球チームの編成は3Kの典型みたいなもので「お金の力で優秀な選手を引っ張ってこればなんとかなる」という考え方がありましたが、今はそうじゃない。そういう風に、営業も変わらないといけないという話なんですよね。
売り上げや生産性を上げる顧客データの活用
―― 大企業ほど人材が潤沢でない中小企業の場合、ここまでの分業化は難しい側面もあると思うのですが…?
中小企業においては、必ずしもそんなきっちり分けられるというわけではないケースが多いです。
そのためにも、まずは顧客データを活用し、何が問題なのかを探る必要があります。
ですが、よくよく営業のプロセスを見直してみたら、売ったあとの工程に非常に時間をかけていることがわかったんです。契約後のことまで全部一人の営業担当者がやっていたんですね。そこを切り離して、別のチームに任せる、いわゆる分業をすることで、生産性を2割上げることに成功しました。このように、ただITツールを導入するだけではなく、社内の体制を事前に整えることが大切です。
危機感を行動へ。オンラインコミュニティの活用もおすすめ。
―― 営業デジタルシフトに際して、中小企業の経営者はどうあるべきですか?
今、多かれ少なかれ、経営者さんは危機感を持っている方がほとんどだと思います。
ただ、具体策が思い付かず、変わるための後押しが得られないままになっているケースが多いのではないでしょうか。
そういう方は、だいたい前職は大手企業にお勤めされていて、もともとデジタルシフトへの知見にある方が多いんですね。 本来、人は変わるのが嫌な生き物ですから、いかに危機感をもって、実際の行動に移せるかどうかが分かれ目だと思います。 サポートさせていただいている会社さんは、給食を作っていらっしゃるのですが、以前は「時間があればとにかく飛び込み訪問する」というのを新規顧客開拓の基本としていました。でも当然ながら、飛び込み訪問をしたって、なかなか相手にされないし、相手にされたとしても、それで商談につながる確率は低いですよね。 その確率の低さをご説明したり、あとは新型コロナの影響もあったので、とうとう飛び込み訪問をやめることになりました。代わりに電話やダイレクトメールでアプローチした後に資料を送るといった方法に変え、商談に結びつく割合を上げていこうとしているところです。
この会社さまの場合、「飛び込みこそ営業だ」というのが美学のようになっていたので、それを捨てるという決断が大きかったと思います。 Googleに勤めていた時に気づいたのですが、アメリカの中小企業の経営者さんはとても勉強熱心で、マーケティングの基本的な知識と経験を持っている方がほとんどです。日本だとITツールも代理店を通して導入しているケースが多いのですが、アメリカは全て自社でやっています。 なぜ違うのか考えてみると、小学校くらいからのビジネスの教育が違うんですね。日本はそこまで変えるのは難しいから、せめて積極的に勉強会やコミュニティに参加されると良いのかなと思います。 また中小企業は地域に根差していることが多いですが、今はオンラインで自分の地域にいない人材と知り合うのも簡単です。
そういったオンラインのコミュニティで、ご自分の事業を変革するためのプログラムを提供して、専門性の高い人に参加してもらい、インセンティブを渡すといったこともやられてみてはいかがでしょうか。 あとは経営者の方に限らず、営業なら営業、新製品開発なら新製品開発で、ビジネスに直結する悩みを持っている人たちと横のつながりを持てるような、デジタルのコミュニティづくりをしていくと良いですよね。
営業デジタルシフトは単なる手段。大事なのは目指すべき未来の姿。
―― 営業デジタルシフトに関して、中小企業の経営者の方々へメッセージをお願いします
「As is(現状)」「To be(あるべき姿)」という、ITやコンサル業界でよく使われる言葉があります。現状を正しく把握し、理想の未来とのギャップを知ることで課題を明確にするというフレームワークのことですが、まさにその通りで「今ある自分と、未来にあるべき自分」を明確にすることがポイントになってくると思っています。
逆に「昨日の自分があるからこそ、今日の自分がある」というふうに過去の成功体験に基づいていては、衰退してしまいます。50代・60代は分かれ目かもしれません。次の世代に継承していきたいと思うなら「どう変わるか」が肝です。標準化や分業化も、手段に過ぎないんです。 ご自分の会社をどういうふうにしていきたいのか?自社のサービスや製品を使って喜んでもらう人をどれだけ増やしたいのか?そういったビジョンを持って、ぜひ「なりたい未来」を創っていってください。営業とマーケティグのノウハウを見直したいということであれば、私もお力になりたいと思っています。- 「記事・コラム」ページを最後まで読んでいただきありがとうございました。
公社では中小企業のデジタル化に向けて、各企業が抱えている課題に合わせたアドバイザーの派遣を実施しております。
ぜひお気軽にお問い合わせください。