2023.11.30
技術のプロ集団が志を一つに“ものづくり力”を底上げ!
木村電子工業株式会社〈製造業〉
木村電子工業株式会社(以下、同社)は1955年の創業以来、“ものづくりのプロ”として営業を続けており、多摩地区で唯一、設計から完成品まで一貫して担える数少ない中小企業として知られている。総合的な技術を持つことから、スマートフォンやレンズのコーティング装置の電源装置、大型の電子顕微鏡、半導体検査装置、船舶の操舵・通信装置など、省庁や大手メーカーから高度な技術力を求められる製品を数多く取り扱っている。
重視しすぎた“現場の意見”
~19年前の生産管理システム導入時の反省
今回、同社では新たな生産管理システムを導入することにした。「近年、“生産力を強化して欲しい”という要望を複数の取引先からいただきました。いずれも高品質で低コスト・短納期、特に省庁の仕事は秘匿性もあり、求められる要求も高いものでした。当時の機械や生産管理システムに限界を感じていました」と 総務部 部長 中野隆氏は導入の理由を語る。
新たな生産管理システムを導入するうえで、同社は19年前に現システムを導入した時の後悔を2度と繰り返さないと誓った。「19年前は、現場の意見を聞きすぎてしまったんです」と中野氏は語る。当時、会社として理想とする生産管理システムに対して、実際にシステムを利用する現場の社員たちに意見を聞いていくうちに、本来イメージしていたシステム内容からスケールダウンした状態での導入となってしまった。 「現場の人たちからは、“端末に入力するのが面倒” “慣れた生産環境を変えたくない”という意見が多く、結局こぢんまりとしたシステムになりました。せっかく導入されたシステムもスケールダウンしたものなので、社員から積極的に活用されないという状況でした」(中野氏)導入成功のカギは“社員の意識醸成”
~プロジェクトチームを発足して意思統一
前回の反省を踏まえデジタル化を成功させるために、東京都中小企業振興公社(以下、公社)へ相談を持ちかけた。公社とはこれまでも助成金での付き合いがあったが、デジタル技術活用推進事業(以下、当事業)を知り、支援を受けることを決めた。
「新しい生産管理システムと機械を入れて、それを有効活用するためにも専門的な知識や情報が必要でした。当事業なら無償で専門家を派遣してくれることを知ってお願いしました」(中野氏) 前回のシステム導入での反省・これから導入したい生産管理システムと機械など、専門家に同社の希望を伝えた。専門家のアドバイスを参考に、今回は社内にプロジェクトチームを立ち上げた。 プロジェクトチームは、全職種の管理職から一般社員まで幅広く集められた。プロジェクトの呼びかけは同社社長・須田尚男氏によるトップダウンではあるが、プロジェクトのスタート後は部長から一般社員の意見交換によって検討を重ねるボトムアップ方式を採用した。 「会社が生き残るためには競争力の維持が必要なことを社長が語り、導入への“線路”を敷いていただきました。その後はプロジェクトチームが“機関車”となって線路を外れないように進んでいきました」(中野氏)プロジェクト立ち上げ間もない頃は「機械の稼働率などが数字として現れるので、自分が管理されているようで嫌だ」など、現場社員からの否定的な反応もあったが、前回の反省を踏まえながら根気強く説得が行われた。今回は、社内の意識をまとめることを第一にプロジェクトチームの一般社員も部署代表として、現場の説得に尽力したという。
プロジェクトチームによる打ち合わせは1年半にも及び、ようやく新たな生産管理システムと機械を導入する道筋が定まった。取材時はまだシステムの構築中だが、2024年4月に稼働を予定している。 今回の導入に至るまで、専門家の存在が大きかったと中野氏は振り返る。 「第三者である専門家の意見には、みんな耳を貸してくれました。他社での生産管理システムの使われ方やデジタル化のメリットなど最新情報を説明してもらい“なぜ、私たちに生産管理システムの刷新が必要なのか”理解を深め、全社員が同じ方向を向くことができました」 前回の反省材料であった社員の“意識醸成”に積極的に取り組んだことが、今回成功した要因なのかもしれない。IoT制御で現場の生産性が向上!
~生産時間短縮で社員の勤務体制にも変化
同社では現在8台ある機械のうち5台が板金加工システムと稼働支援システム(IoT)を使って稼働させている。設計図をもとにしたプログラムを機械側PCに伝えて、自動加工の稼働状況を“見える化”する仕組みだ。取引先によって作業内容が細かく異なるため、作業に適した機械を選択して作業している。
昨年から生産管理システムに先立ちIoT制御の機械を導入し、今年4台体制から新たに5台体制に更新した。中野氏はIoTの導入によって、生産性が大幅に向上したと言う。機械の稼働時間が短縮となり、板金加工では残業や休日出勤が減って人件費にも良い影響が現れている。「IoTで制御している一部の機械は資材を自動供給し、後処理も行ってくれるので作業全体が早くなりました。もう一つ変化したのは不良が減ったことです。何か異常や間違いがあった時、IoTで繋がっている機械メーカーからトラブル対処のアドバイスが来ます。現場社員もアドバイスをもとに経験を重ねて新しい機械に精通してきました。
また現場では機械ごとに特定の担当者をつけず、いろいろな社員に担当させています。あの人が居ないと機械を動かせないではなく、社員が病気だったり家族旅行の予定があったりしても、機械を動かせる体制にすることは会社としても社員としても大事なことだと思います」(中野氏) これから導入する機械はすべて同じメーカーのものに統一して、残り3台の板金加工機も順次新しい機械に替えていく予定だという。IoT制御の機械を前述の生産管理システムと連携させる予定だが、機械メーカーの対応待ちの状況で2024年4月までに連携する計画となっている。生産管理システムと繋がりIoT制御の機械が増えていけば、将来的には集中管理も視野に入れているという。ネットワーク構成図
最後、中野氏にデジタル化推進を検討している中小企業へのアドバイスを伺った。
「最初に動き出す時はトップダウンが絶対に必要で、早めに決断を下した方がいいと思います。あとは社員たちが考える際に会社と同じ共通認識を持てるかどうかです。 もう一つは社外の専門家に関わってもらうことは、ぜひ検討した方がいいです。今回、公社の専門家のアドバイスによって、行き詰まっていたことがかなり円滑に進められました。例えば、DXとは何か・IoTとは何かということを社員に教えてくれましたし、生産管理システムのシステムベンダーとの交渉でも助言をくれて、システム業界を知らない私たちにとって専門家の“生きた情報”は貴重でした」(中野氏)企業情報
- 社名
- 木村電子工業株式会社
- 所在地
- 東京都昭島市武蔵野2-7-7
- 設立
- 1955年
- 事業内容
- 設計から板金加工・機械加工・二次処理、電気組立・配線、電気調整、納品まで装置や部品の製造
- 資本金
- 4,000万円
- 従業員数
- 78名