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2020.05.12

IoTツールを利用し、要介護者の安心安全を確保。
スタッフの業務効率も改善。

社会福祉法人武蔵野療園 しらさぎ桜苑〈福祉サービス業〉

介護施設の現場は、要介護者の排泄介助、おむつ交換、ベッドやシーツなどのリネン類の交換、配膳・食事介助、レクリエーションへの参加、介護記録の作成、と多量で多岐にわたる。そして、そのような忙しい現場でありながら、施設利用者の身の安全を守る必要があり、スタッフは常に気を緩めることができない。
万が一、一人の要介護者が徘徊等で行方不明にでもなると、全スタッフが目の前の作業の手を止め、施設総出で捜索にあたる大事件となる。そして、これはめったに起こらないことではなく、介護現場では比較的日常的に起こっている問題である。
そのような問題に対し、社会福祉法人武蔵野療園しらさぎ桜苑では、GPSとWebアプリケーションを連動させたIoTサービス「イマココサービス」を使用し、要介護者の安全と施設内の業務効率化を図っている。その様子について、武蔵野療園理事長の駒野登志夫氏と、しらさぎ桜苑管理者の津島仁氏にお話をうかがった。

社会奉仕・地域貢献の理念のもとに。

社会福祉法人武蔵野療園は、1936年(昭和11年)に発足し、1952年(昭和27年)に社会福祉事業法により、東京都で第一号の社会福祉法人として許可され、医療と福祉を密接に連携したサービス提供を早くから行ってきた歴史ある法人。1978年(昭和53年)には、到来する高齢化社会を見据えて、特別養護老人ホーム(中野友愛ホーム)と老人病棟を新設し、高齢者福祉事業への取り組みを開始。現在20以上ある同法人の事業所の中で、「しらさぎ桜苑」は2013年(平成25年)に、地域密着型通所介護・都市型軽費老人ホーム・小規模多機能型居宅介護・訪問介護・地域連携室と幅広く高齢者介護を提供する複合施設として開設された。

利用者の安全安心を第一に、IoTサービスの導入。

しらさぎ桜苑は高齢者介護サービスを提供する施設であることから、利用者の中には高齢による認知症の方もおり、その症状として徘徊してしまう方も少なくない。施設に常時入所している方であれば、施設スタッフも気を配れるが、通いで施設を利用される方などの場合は、施設だけではなく自宅でも徘徊の可能性があるため、心配が尽きない。徘徊でもっとも大変なのは徘徊した本人だが、その本人を探すことになる家族や関係者も負担が大きい。徘徊した人を探さなければならない労力と、見つかるまで心配し続けなければならない不安により、肉体的にも精神的にも疲弊してしまう。

そのような問題を解決するために、しらさぎ桜苑では株式会社チェリー・BPMの「イマココサービス」を利用している。要介護者にGPSを身に着けてもらい、アプリで要介護者の居場所がわかる、というものだ。施設利用者がたとえ徘徊してしまったとしても、アプリを見ればどこにいるかがわかる。徘徊してしまった人がどこにいるかわからない不安が解消されるとともに、すぐに居場所にかけつけることができるため、徘徊者の安全を確保できる。徘徊でもっとも危険なのは交通事故を含む事故との遭遇だ。夏の暑い日は熱射病、冬の寒い日は凍死などの危険性もある。できる限り早く徘徊者を保護することにより、徘徊者を危険から救うことができる。

ちなみに、警察庁の発表によると、2018年の1年間に警察が届け出を受理した認知症に関わる行方不明者は、前年より1,064人多い延べ1万6,927人だった。統計を取り始めた2012年の1.7倍となり、6年連続で過去最多を更新した。行方不明届の受理当日に7割、一週間以内にほとんどの人が所在確認されたが、徘徊中に事故に遭うなどして、500人余りが死亡している。1日に46人が行方不明になり、1人以上が死亡している計算だ。

想いが形づくるサービス

イマココサービスは、仕組みとしては単純だが、実は試行錯誤の結果できている工夫が詰まったサービスだ。 その一つはGPSの身に着け方。一般的にGPSを身に着けるというと、バッグか何かに入れて持ち歩くか、服などにつなぐイメージだろう。しかしながら、徘徊する人はバッグなどを持たずに出かけることもよくあり、GPSが取り付けられた服を必ず着て出かけるとも限らない。服などに取り付けられるのを嫌がる人も多いという。そのようなことを解決するため、チェリー・BPMでは靴の中にGPSを取り入れる仕組みを考えた。チェリー・BPMの山田玉栄社長によると「徘徊する人は何も持たずに外に出て行くことはよくあるが、どんな人でも必ず靴だけは履いていく」と言う。 山田社長は自らも介護施設で長年働いてきた経験があり、徘徊する人を何人も目にしてきた。そのような経験から徘徊者を見守るサービスを提供したいと同サービスを開発。GPSと靴を使ったサービスでは特許も取得している。

また、GPSのパッケージも超小型で完全防水と特注品だ。靴底に入れて使用するため壊れないように頑丈に、かつ軽量にできている。このようなものが世の中にあったらいいな、という山田社長の想いが詰まった製品となっている。「徘徊している家族を『探し回る』のではなく、『お迎えに行く』社会にしたい。徘徊しないように高齢者を室内に閉じ込めるのではなく、高齢者本人に思うように過ごしてもらうことで、本人もその家族も暮らしが楽になるはず。」と山田社長。

家族の協力の元、導入へ

しらさぎ桜苑でのイマココサービスの導入にあたっては、施設利用者(要介護者)の家族の方の協力が重要なポイントだった。GPSサービスを使うことによって施設側の業務効率がどんなに上がるとしても、プライバシーの問題もあるためやはり身に着ける本人及び家族の了解なしでは話を進めることはできない。

現在イマココサービスを利用している対象者については、家族の快い同意があった。現在は家族と施設でアプリを共有し、要介護者を全員で見守っている状態だ。「徘徊者の場所を特定できることで、すぐに探しに行ける。忙しい現場において探す時間を省くことができるのはとても助かる。徘徊は止められないので、徘徊が発生した後どうするかを考えていくことが大切。」そう語るのは、しらさぎ桜苑管理者の津島仁氏。「私たちのような介護施設を利用できる方々はまだいいが、自宅で生活せざるを得ない要介護者も多い。そのような方々ほど徘徊の心配が多く、イマココサービスのようなサービスの価値が出るかもしれない。」と言う。

一方で課題も指摘。「介護は何かとお金がかかるもの。いくら良いサービスでも費用の問題で導入できていない家庭も多いかもしれない。介護保険の適用対象となると助かる人は多いかもしれない。」と津島氏。現在チェリー・BPMのイマココサービスは厚生労働省の介護保険適用対象とはなっていない。ただ、地方自治体が独自に介護保険適用対象としている地域もあり、そのような地域では利用が進んでいる。チェリー・BPMの山田社長も自ら積極的に行政に働きかけ、介護保険適用を依頼しているという。 認知症は誰にでもなりえるものであり、決して他人事ではない。全員が利用対象となりえる介護現場でのテクノロジーの応用や取り巻く制度については、自分たちもよく注意しておく必要がありそうだ。

左/社会福祉法人武蔵野療園 理事長:駒野登志夫 氏
  株式会社チェリー・BPM 代表取締役:山田玉栄 氏

右/しらさぎ桜苑 管理者:津島仁 氏

インタビュイー

interviewee

社会福祉法人武蔵野療園 しらさぎ桜苑〈福祉サービス業〉

理事長 駒野登志夫氏

企業情報

社名
社会福祉法人武蔵野療園 しらさぎ桜苑〈福祉サービス業〉
所在地
東京都中野区白鷺1丁目14番8号
設立
事業内容
都市型軽費老人ホームの運営、小規模多機能型居宅介護・訪問介護・地域密着型通所介護の提供、地域連携室での地域貢献事業
資本金
従業員数
33名