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2024.10.25

DXは経営者にとって“最優先で取り組むべき分野”だ

【中小企業の“分岐点”】#1 佐竹特殊鋼株式会社〈製造業〉

各種金属の販売や加工を手掛ける佐竹特殊鋼株式会社は、「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業()」を利用し、新たな進捗管理システムを導入。Excelと紙の書類で進捗管理を行っていた頃に比べ、大幅な省力化と納期遅延の防止に成功した。さらに採用や顧客対応を強化するためにホームページを充実させたり、社員教育の進み具合をデジタル管理したりするなど、あらゆる分野でDXを進めている。DXチームを自ら率いている代表取締役の佐竹昌史氏は、「DXは単なるデジタル化ではない。“デジタルの力を活用して会社全体の仕組みを変えること”だ」と断言する。

 令和4年度時点の事業名で、現在(令和6年度)は「DX推進支援事業」で同様の支援を実施

代表取締役である佐竹昌史氏。働き方改革やSDGsの取り組みも積極的に行っている

【当時の課題】
製造工程のアナログな進捗管理がムダを生み、納期遅延が頻発

佐竹特殊鋼株式会社は創業から50年以上の老舗企業。当初は特殊鋼・ステンレス・アルミ・チタンといった金属素材の販売を手掛けていたが、2008年から金属加工業に参入した。2019年には加工センターを新設して自社一貫生産を実現し、短期間の納品や、高品質・高精度な加工への対応も可能になった。ところが、加工部門の売り上げが伸びる中で、進捗管理の問題が徐々に大きくなっていったという。

「以前は、1カ月あたり数百件に及ぶ加工作業の進捗状況を、Excelと紙の書類で管理していました。加工担当者が案件ごとの納期を把握しづらかったため、優先して取り組むべき作業が後回しになって納期遅れを起こすケースが少なくなかったのです。また、当時は営業担当者が頻繁に加工現場へと出向き、納期確認のため加工担当者に進捗状況をヒアリングしていました。各営業担当者がこの作業を1日に1時間ほどかけていて、営業担当者にとっても加工担当者にとってもムダだと感じていましたね。 こうした問題を解決するため、工程管理の担当者を置こうかと考えたこともありました。でも中小企業にとって、間接部門の人材をおいそれと増やすわけにはいきません。かといって、問題を現場の加工担当者任せにするのも限界があります。それで、進捗管理システムを入れてみてはと考えるようになったのです」(代表取締役・佐竹昌史氏) 佐竹氏は付き合いのあるシステム開発会社に相談し、システム導入プロジェクトに乗り出した。ちょうどその頃、「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業(現DX推進支援事業)」の案内を受けたという。 「システム導入に際してアドバイザーの方にサポートいただけるのは、当社にとってもありがたいこと。それに、経営者仲間の中には公社のさまざまな支援を受けた人が何人もいて、彼らから『アドバイザーからの助言や指導は有益だ』という評判も聞いていました。それで渡りに船とばかりに、公社の支援事業を受けようと決めました」

加工部門の責任者や加工担当者の負荷を抑えつつ進捗管理のやり方を改善することが、大きな課題だった

【導入時の気づき】
選抜メンバーでチームを組み、経営者が牽引してDXを加速すべし

システム導入プロジェクトを始めるにあたって佐竹氏がまず手をつけたのは、プロジェクトチームの結成だ。加工センター・営業・調達・物流センターの各部門から1人ずつメンバーを選抜し、佐竹氏自身がリーダーを務めた。そして公社から派遣されたアドバイザーと定期的に会議を行い、各部門が抱える課題や、それらを解決する手段について話し合いを行ったのだ。

「アドバイザーの方に来社いただき、社員や開発会社と一緒に会議をしてもらったのはありがたかったですね。おかげで現場の課題を効率良く吸い上げつつ、進捗管理システムに求める要件を明らかにすることができました。それに社内の人間だけだと、自社の弱点や改善すべき点になかなか気付きにくいもの。アドバイザーの方が上手に引き出してくれたおかげで、進捗管理以外の社内課題も明らかになりました」 アドバイザーからは、会議のたびに宿題が出された。そこでプロジェクトチームは、次の会議までに社内で議論を重ねて対策案を模索。それを何度か繰り返して進捗管理システムの仕様を整理しまとめ上げ、発注にこぎ着けた。 「開発会社との打ち合わせにも、プロジェクトチームのメンバーやアドバイザーに参加してもらいました。その結果、パソコン操作に慣れていない加工担当者でも操作できるシンプルな入力画面にする、QRコードをスキャンするだけで入力できるようにして加工担当者に手間をかけさせないよう工夫する、納期直前の案件は黄色や赤色で表示して注意を促すなど、現場の要望に沿ったシステムができあがったと思います」

納期が迫った案件を色つきで示すなどの工夫を凝らして、作業の優先順位を分かりやすくした

佐竹氏はこのプロジェクトを通じ、“経営者が自らDXを主導することの大切さ”を知った。複数いるメンバーのスケジュールや業務負担を調整し、期限までにプロジェクトを成功に導くには、経営者の強力なリーダーシップが不可欠。それに、システム開発にどのくらいの予算をかけるかなどの重要な決断は一介のメンバーには不可能で、経営者にしかできないと気付いたからだ。そして佐竹氏は、“DXは中小企業の経営者にとって最優先で取り組むべき分野”だとも指摘する。

「人手不足はどの中小企業にとっても、深刻な問題です。うまく対処するためには、若手社員をできるだけ早く戦力化しなければなりませんし、離職率も下げる必要があります。そこで重要になるのがDXなのです。デジタルの力を借り、ムダな作業をできるだけ少なくして働きやすさを改善する。ベテランの知識をうまくマニュアル化して、社歴の浅い担当者でも質の高い作業ができるようにする。そうした努力を重ねることが、中小企業の生きる道なのではないでしょうか」

【導入効果】
営業担当者の進捗確認作業が月100時間減!顧客からの好感度もアップ

進捗管理システムの導入により、加工担当者は手元のタブレットPCで担当案件の納期を一覧できるようになった。また、社内の大モニターには納期が迫った案件が表示されるようにもして、納期管理の意識を高めた。今後はさらに納期意識を上げ、納期遅延を撲滅する方針だ。 さらに、営業担当者の負担も軽くなっている。

「以前は各営業担当者が1日に1時間かけていた進捗確認作業が、わずか5分程度に減少しました。月換算だと1人あたり20時間以上で、4人の営業担当者全員分を合計すると、月80~90時間くらいの作業が減った計算です。加工担当者が確認に費やす時間も減っていますから、全社で見ると100時間以上のムダな作業が削減できたのではないでしょうか。その分の時間は、社員教育などもっと有意義なことに充てています」

工場内に設置された大モニターに納期状況を表示して全社員で共有し、納期意識を高めた

今回のシステム導入の取り組みで、大幅な省力化を達成した。そして、さらに目指すのは単なる「デジタル化」にとどまらず、「DX」なのだと佐竹氏は強調する。

「部分的にデジタルを入れても、効果は限定的です。そうではなく、デジタルの力で全社の仕組みや仕事のやり方を変えるのが本来のDXだと思うのです。例えば当社では先日、採用ホームページをリニューアルしました。各部門の仕事内容を映像で紹介したり、1日のスケジュールや社員の男女比などを図で表したりするやり方に変えたのです。百聞は一見にしかずと言いますが、映像や図で見せる方が若い世代には伝わりやすいですから。このように、採用・教育・営業・製造・在庫管理などの各分野でデジタル化を進めていく方針です」

DXが進めば顧客に与える印象も変わるというのが、佐竹氏の実感だ。加工の進捗状況や納期をデータで管理し、客先からでもすぐ確認できるようにしたことで、顧客からの信用は自然と高まった。また、DXは社員のモチベーションアップにもつながる。

「人の力だけに頼らず、自動化できる部分はできるだけ自動化する。デジタルを使い、社員同士が協力しやすくなる環境を整える。そうすれば社員は面白がってくれますし、求職者の注目もひきやすくなると思います。公社には、DXへの取り組みを支える仕組みがたくさん用意されています。アドバイザーの助言や助成金などを有効に使い、課題を解決することが中小企業にとっては大切だというのが、私の考えです」

【佐竹氏の気づき】


佐竹特殊鋼株式会社代表取締役佐竹昌史氏
  • 社員・開発会社・アドバイザーが三位一体でDXに取り組むべし
  • 経営者が先頭に立つことで、DXの成功率は上がる
  • DXは業務効率だけでなく、社員の意識と顧客からの信用を高める

企業情報

社名
佐竹特殊鋼株式会社
所在地
東京都立川市一番町4-65-32
設立
1974年
事業内容
各種金属材料の販売、金属加工品の製造・販売
資本金
1,200万円
従業員数
22名(2024年8月現在)