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2023.01.18

DXの取組を通じ社内コミュニケーションも活性化!

有限会社三栄螺子製作所〈製造業〉

三栄螺子製作所はその名の通り、「螺子(らし=ネジのこと)」、つまりボルトやナットなどの加工・製造・販売を手がけている企業だ。また、近年は5軸マシニングセンタなどの新鋭機械を導入し、ボルト・ナット以外の多彩な金属製品も作り出している。最大の強みは、高度な技術力と対応力。多品種少量生産のスタイルで他社では製造が難しい特殊な加工を施し、多くの取引先企業から高く評価されている。

同社は2022年、新たな生産管理システムを導入した。プロジェクトを主導した代表取締役の羽島氏と工場長の藤田氏に、システム構築の流れやベンダー選びの基準、公社から受けた支援などについて伺った。

代表取締役の羽島昭吉氏(写真右)と、工場長の藤田康文氏。両氏は従業員を巻き込みながら、社内のIT化を進めていった。

当時抱えていた課題
~老朽化した生産管理システムを更新したかった

当時の三栄螺子製作所では、Windows95の時代に構築された生産管理システムの更新が大きな課題となっていた。20年以上にわたってアップデートし使い続けてきたシステムだったが、保守を担当していたベンダーが数年前に廃業したことで、Windows10には対応できなくなったのだ。

「Windows7のサポート切れが決まった頃から、すぐにでも生産管理システムが使えなくなるのではと危機感を覚えていました。そこで新システムの導入を模索していたのですが、当社にはITに詳しい社員がいません。何から手をつければいいのかも全く分からず、いたずらに悩んでいたのです。その頃、ベンダーA社から新システム導入の提案を受けたのですが、私たちの仕事の進め方とは合わない部分が多かったですし、当社には不要な機能がたくさん盛り込まれていて使いづらそうだとも感じました。ただ、他にどんなベンダーがあるのかも知らなかったので、『A社に頼むしかないのか……』と思い始めていたところでした。

そんなとき、ある展示会で当社の存在を知ったという公社の担当者から、『何か困っていることはありませんか?』と連絡を受けたのです。こちらから相談をもちかけたわけではないのに、わざわざ声をかけてくれるのかと驚いたのを覚えています」(羽島氏)

羽島氏は公社の担当者と連絡を取り合い、デジタル技術活用推進事業の存在を知った。そこで紹介された「デジタル技術アドバイザー」(以下「アドバイザー」)とやりとりしながら、自社の状況を整理。新たに浮かび上がった問題点が、当時使っていた生産管理システムの効率の悪さだった。製造計画や図面などを紙ベースで管理していたため、過去のデータを参照しようとすると、分厚いファイルの中から必要な情報をいちいち探し出す必要があった。また、見積もり・受注データが請求や支払いとひも付けされておらず、別途伝票に再入力しなければならなかったのだ。

「アドバイザーの方と話すうちに、自分たちの問題点や手がけるべき作業がだんだんと明らかになってきました。悩んでいた私たちに、一筋の光明が差したような思いでしたね」(羽島氏)

工場内に貼られた進捗表。進捗に関する詳しい情報を得るためには、工場と事務所を行き来しなければならなかった。
過去の製品と似たものを作る場合、膨大なファイルの中から参考になる図面を探し出す必要があった。仕入れ台帳なども紙で管理しており、ファイル類は毎年増えていたという。

導入の流れ1
~全業務を洗い出しベンダー3社と面談

羽島氏は新システムの導入に際し、自身に工場長の藤田氏、営業課長、事務スタッフを加えた4人の「社内DXチーム」を結成した。若く、より現場に近いメンバーに参加してもらうことで、使いやすいシステムにするのが狙いだったという。そして1~2カ月に1度のペースでアドバイザーと面談し、プロジェクトを進めた。

「最初にアドバイザーの方から、今後の進め方について方針を示していただきました。どのように作業を進めればいいか明らかになったことで、前向きなパワーが生まれましたね。プロジェクトの進捗が遅れたときは月2回ご訪問いただいたこともありますし、逆に繁忙期で当社に余裕がない時期には、訪問を先送りしていただきました。こちらの状況に合わせて柔軟に対処していただけたのが、とてもありがたかったです」(藤田氏)

まず着手したのは、社内で行っているすべての作業を再確認することだった。社内DXチームはアドバイザーの力を借りながら、各部門の業務フローを作成。その上で、全社員にアンケートを取るなどして、システムに求める機能を洗い出した。

「社内のどこにいても、各製品の進捗状況がリアルタイムでわかりやすく確認できること。図面や検査結果通知書などの各種情報をすべて電子データ化し、簡単に検索できること。『材料成績書』や『熱処理成績書』などを製品ごとに管理し、不具合などがあればすぐに参照できること……。そうした新システムに必要な条件をまとめて、3つのベンダーにヒアリングとデモンストレーションを依頼したのです」(羽島氏)

「1~2カ月に1度の面談に合わせ、私たちはさまざまな準備を進めていきました。面談が一種の『ペースメーカー』の役割を果たしてくれたことで、プロジェクトがスムーズに進んだと感じています」(羽島氏)

導入の流れ2
~自社に合うシステムならカスタマイズも安価で済む

ベンダー3社を比較する中で重視したのは、自社の業務に合ったシステムを構築してくれるかどうか、という点だった。以前から提案を受けていたA社のシステムは、どちらかというと大量販売が得意な商社企業向け。一方、三栄螺子製作所のような多品種少量生産型の企業に向いていたのが、B社の提案したシステムだった。

「中でも魅力的だったのが、図面や検査結果通知書などのファイルを『付属情報一覧』にすべて収め、一元管理できる点でした。何か問題が起きたり、過去の情報を知りたいと思ったりしたら、このページを見ればすべて解決できるというわけです。また、ものづくりの現場に寄りそった設計になっていたところも、B社の魅力的な点でした」(羽島氏)

「当社の技術者には高齢の人も多く、システムがあまりに多機能だとついていけないかもしれないという恐れがありました。その点、B社のシステムはシンプルで使いやすそうだと感じましたね。社内DXチーム以外のメンバーにもデモンストレーション画面を見てもらい、『これなら、旧システムに慣れていた社員たちもスムーズに新システムに移行できそうだ』という感触を得たのです」(藤田氏)

こうして三栄螺子製作所では、B社にシステム構築を依頼することとなった。ところで、当時の羽島氏は予算規模について、明確には考えられなかったと振り返る。

「まずは、使いやすい新システムを早急に導入することが最優先課題でした。旧システムの改修・保守にもそれなりの金額がかかっていましたし、デジタル技術活用推進事業で最大300万円の助成金が得られることもあって、予算額は二の次だったのです」(羽島氏)

新システムは12月から本格導入予定。そのため、工場で使うノートPCやタブレット端末、進捗状況を簡単に入力するためのバーコード読み取り機などの購入費用までを含めた最終的な導入費用は確定していない。

「B社のシステムは当社の業務と親和性が高かったため、カスタマイズは最小限で済みました。もし他社に頼んでいたら、もっとカスタマイズが必要になり、費用もかさんだのではないでしょうか。デジタル技術アドバイザー支援を受けて自社に合うシステムを選定できたおかげです」(羽島氏)

新システムの画面。図面などの各種データが「付属情報」として一覧できるため、現場スタッフから好評だ。
「古いシステムに慣れたベテラン社員の負担が増えないよう、新システムにはシンプルな操作性を求めていました」(藤田氏)

導入効果
~システム導入以外の分野でもメリットがあった

2022年11月の取材時点では、システムの導入が終わり、テスト稼働が始まったところ。今後は現場での使い勝手を確かめ、必要ならさらなるカスタマイズを行う方針だ。

「今後はペーパーレス化を進め、過去の資料を探す手間を小さくしていきたいですね。また、過去の不具合などが簡単に検索できるようになることで、製品の質を高め、顧客満足度の向上につなげたいと考えています」(羽島氏)

「現場を司る立場としては、情報の共有化・見える化によって業務効率を高めたいです。現場のスタッフは今まで、自分が担当する仕事にばかり注目していました。ところが新システムの導入により、現時点で当社が引き受けている仕事のすべてを、全社員が見られるようになったのです。どの案件の納期が目前に迫っているのか、どの工程にどのくらいの負荷がかかっているかなどが分かれば、各社員が仕事の優先順位をつけ、より効率的に動けるようになると思うのです。そうした習慣が社内に根付けば、社員も時間管理が上手になっていくかもしれません」(藤田氏)

新システムの導入は、思わぬ副産物も生み出している。その1つが、社内コミュニケーションの活性化だ。

「新システムを導入する際に、社員からアンケートをとったり、定例会で意見交換をしたりしました。その結果、以前より社員からの意見が活発に出るようになったのです。それまで当社の社員は比較的おとなしい人が多かったのですが、互いに意見を出し合ったり、同僚に相談したりする雰囲気が出てきたのは嬉しい変化でした」(羽島氏)

システム導入に伴い、現場にノートPCやタブレット端末が置かれたことも、同社に良い変化をもたらしたそうだ。

「5軸マシニングセンタなどの新鋭機械は、周囲の工場で目にすることがほとんどありません。そのため、より良い加工方法・加工ツールを知らないままで使っていたケースもあったのです。しかし、現場でインターネットを使えるようになったことで、メーカーのホームページや動画サイトで他社の成功事例を簡単に調べられるようになりました。社員の中には、動画サイトなどで優れたノウハウを学び、すぐ作業に取り入れている人もいます。会社全体で自発的なコミュニケーションが増え、情報を共有しようとする姿勢が各社員に生まれているのです」(藤田氏)

羽島氏たちは、デジタル技術活用推進事業に満足している。お仕着せのやり方ではなく、自社に合ったIT化の進め方をプロのアドバイザーが勧めてくれたことに、心強さを感じたのだという。

「アドバイザーの方が最初に大まかな青写真を示し、さらに要所で助言してくれたことにより、当社が進むべき方向が見えました。公社の支援がなければ、導入はこれほどスムーズにはできなかったのでしょう」(羽島氏)

「アドバイザーの方は、課題を洗い出し、優先順位をつけて一つひとつ解決していきました。そんな仕事の進め方をつぶさに見たことが、とても勉強になりましたね。当社でもそうしたやり方を取り入れ、もっと良い仕事をしていければと考えています」(藤田氏)

事務所だけでなく工場にもインターネットが導入されたことで、自ら情報を得ようとする姿勢が社員に生まれたという。

企業情報

社名
有限会社三栄螺子製作所
所在地
東京都墨田区東向島6丁目23番2号
設立
1954年
事業内容
ボルトやナットをはじめとする金属加工部品の加工、製造、販売
資本金
600万円
従業員数
18名