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2023.02.15

”クラウド”による業務効率化で入力ミスが1/3に減少!

株式会社香那ホールセール

香那ホールセールの主力事業は、業務用沖縄食材の卸売業だ。首都圏に約800ある沖縄料理店のうち約300店舗と取引があり、業界内での存在感は非常に大きい。また、コロナ禍以降はBtoC事業にも進出。沖縄の工芸品である「やちむん(焼き物)」の販売、ネットスーパーを通じた生鮮品の販売、タコライスなど沖縄の食べ物を売るキッチンカーの運営なども手がけている。

成長を続けてきた香那ホールセールだったが、売り上げの拡大と共に事務的なミスが増えてクレーム件数が増加。また、手間をかけても付加価値につながらない業務が増えていることも悩みの種だったという。そこで同社代表取締役の宇根良樹氏は、IT化を進めることで大幅な業務効率化を図った。

代表取締役の宇根氏は、沖縄料理店の開業を目指して上京。その後、東京では沖縄食材が手に入りにくい状況を知って、自ら沖縄食材の卸売を手がけようと決意した。

当時抱えていた課題
~定型業務の業務効率化とミス削減が求められていた

宇根氏は2006年に沖縄食材の卸売業を始め、翌2007年に香那ホールセールを設立した。当時に比べると、現在の売り上げは約10倍にまで拡大したという。しかしそれに伴い、出荷ミスなどが原因で起きたクレームの件数も、約3倍に増えてしまった。背景にあったのは、受注や売掛金の管理、集金業務、社内情報の共有などを、手作業で行っていたことだった。また、手間をかけても付加価値が得られない「定型業務」の負担が大きく、悩んでいたと、宇根氏は振り返る。

「例えば当時の受注業務は、料理店などから電話やファックス、メールで送られてきた注文を、当社のスタッフが基幹システムに入力するやり方でした。このとき入力ミスを防ぐため、入力者とは別の人が内容をチェックし、さらに別の人が再チェックしていたのです。効率が悪すぎましたし、かといってチェックを減らすと、ミスはさらに増えてしまいます。どうすればいいのかと考えあぐねていたとき私は、テクノロジーによる小売業界の再生をテーマとした本に出会いました。この本にヒントを得て、受注業務に代表される定型業務を、IT活用によって自動化できないかと考えるようになったのです」(宇根氏)

宇根氏は、POSの売り上げデータを自動処理して、そこから各メニューの発注数を自動計算し、さらにAIを使って需要予測や受発注処理までできる自動発注システムの構想を立てた。しかし、知人のエンジニアなどに相談したところ、開発には数千万円規模の費用がかかると聞かされて自社開発は断念。仕方なく、別の道はないかと模索を続けた。

「自社の業務フローを洗い出し、『受注』『営業』『倉庫内業務』などのプロセスごとに、どこに課題があるのか検討しました。そして、まずは受注業務の効率化を図るため、クラウド型のサービスを導入しようと決めたのです」(宇根氏)

香那ホールセールの取り扱いアイテム数は約2000種類で、鮮魚やフルーツから泡盛など沖縄ならではの食材を幅広く取りそろえている。

導入の流れ1
~クラウド型受発注サービス導入で入力ミスを撲滅

最初にクラウド型受発注サービスを導入したのは2018年のこと。ITベンチャーA社が新たに開発したサービスで、宇根氏はその企業に対してさまざまな提案をした。

「A社はITについては詳しかったのですが、卸売業界の知識や、そこで日々行われている業務の実態についてはよく分かっていませんでした。そこで、私から『こんな機能があれば利用側は嬉しい』などの情報をA社に提供することで、サービスがより使いやすくなればと期待したのです。事実、そのサービスはバージョンアップを重ね、だんだんと改善されていきました。ただ、彼らのユーザービリティ(使いやすさ)の評価基準が卸売側ではなく飲食店に向けられたものだったことと、我々の視点では物足りなさや使いづらい面があったため、別のサービスに乗り換えることにしたのです」(宇根氏)

そして、宇根氏が2019年後半に見つけたのが、B社が開発した卸売業向け受発注サービスだった。宇根氏はB社にデモンストレーションを依頼し、さらに、B社の受発注サービスを実際に利用している企業にわざわざ足を運んで使い勝手を聞いたという。

「私はB社にも機能改善の提案を何度も行うなど、導入に際してかなりの手間をかけました。それは、受注業務の入力といった定型業務を省力化することが、当社にとって最重要課題だと考えていたからです。

労力を費やした甲斐はありました。顧客の飲食店がB社の受発注サービスに入力した受注データをそのまま基幹システムに反映できるようになったため、入力時のミスは一切なくなりました。また、それまで入力内容の確認、再確認にかかっていた手間がなくなったため、1日あたり約6時間、1カ月で百数時間の作業が削減できたのです」(宇根氏)

B社の受発注サービスは、営業活動の面でも効果をもたらしたという。以前は電話やメール、DMなどによって宣伝を行い、見込み顧客から問い合わせを受けたら、見積もり作成・商談・受注という流れで営業をしていた。しかし導入後は、LINEを使った新商品の案内ができるようになったこともあり、販促の労力が減り受注までの期間も短くなった。

現在使っている基幹システムの、在庫管理の画面。顧客が入力した受注情報が基幹システムに直接反映されるようになり、手入力が不要になったことでミスは格段に減った。

導入の流れ2
~中小企業には固定費を抑えるクラウド型サービスが向く

B社が開発した受発注サービスの導入から数カ月経った頃、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。取引先の飲食店が時短営業や休業に追い込まれたことで、香那ホールセールの売り上げは激減。しかし宇根氏は、目の前の業務量が減った今こそ、IT化を急速に進められるチャンスだと前向きにとらえた。そして、公社のデジタル技術活用推進事業を利用し、基幹システムの大規模カスタマイズに挑んだのだ。

「基幹システムをカスタマイズする前は、各飲食店から寄せられた注文に対し、1件ずつ対処を行っていました。ところが今は、さまざまな条件で注文情報を自動分類し、それらに対して売り上げ処理や発注処理などを一括で行えるようになったのです。その結果、作業量が大幅に削減できました」(宇根氏)

出荷作業などの倉庫内業務でも、IT化を進めた。デジタル技術活用推進事業で派遣された「デジタル技術アドバイザー」(以下「アドバイザー」)の支援を受けながら、商品の品出し・ピッキングから梱包、納品までの業務フローを再検討。最大のボトルネックになっていたピッキング作業を効率化するため、商品を識別する「JANコード」を素早く正確に読み取るためのバーコード読み取り機を導入した。その結果、こちらでも業務効率は大きく高まったという。

「私は創業者として、ビジネスをゼロから立ち上げました。ですから、当社の業務フローや、そこに潜む課題についてはある程度把握できていたのですが、その課題を解決するためにはどんなツールが最適なのかは分からなかったのです。そうした中、アドバイザーの方から当社に合うやり方を3~4案挙げていただき、そこから私たちが選ぶ形で進められたことで、IT化はよりスムーズに進んだと思います。また、冷静で客観的なアドバイスをいただけたのもありがたかったですね。同じ業界に長くいると、先入観が邪魔して柔軟な発想ができなくなるケースがあると思いますが、アドバイザーの方から業界外の視点を提供してもらえたことで、新たな発見がありました」(宇根氏)

香那ホールセールでは受発注サービスの導入や基幹システムのカスタマイズ以外にも、さまざまなIT化を進めている。例えば、クラウド型の企業間請求代行サービスを導入したことで、請求・集金業務の効率化が実現。さらに、取引先飲食店の支払い業務が簡単になったことなどで取引が活発化し、売り上げアップにもつながった。また、会計ソフトや電子請求書発行サービス、タスク・プロジェクト管理アプリなどを導入する試みも進めているところだ。

「自社にあったシステムをゼロから作ろうとすると、長い時間と莫大な予算が必要になります。また、社内にIT専門スタッフやサーバーなどを置かなくてはならず、固定費の負担も重くのしかかるでしょう。一方、クラウド型のサービスを利用すれば、自社のリソースでは実現できないような取り組みを、設備投資をすることなく短期間で実現できるのです。当社のような中小企業ほど、積極的にクラウド型サービスを活用すべきだと思いますね」(宇根氏)

ハンディターミナルを使うことで、商品知識に乏しいスタッフでも間違いなく出荷・検品ができるようになった。また、棚卸し業務も以前より短時間で行えているという。

導入効果
~ムダの削減で高付加価値業務に取り組む余裕ができた

受発注サービスの導入や基幹システムのカスタマイズを行った結果、入力作業などのミスは5年前に比べて約3分の1に減った。また、受注などの定型業務に関わる作業量も減らせたが、これらの効果は単なるコスト削減にとどまらないと宇根氏は語る。

「IT化でムダな作業やミスを減らせたおかげで、私たちには時間的な余裕ができました。それらを、お客さまの悩みを聞き取って最適な提案を行うなど、高い付加価値を生み出す仕事へと振り分けられるようになったことが、IT化の最大の効果だったと思います。データ入力などの定型業務に手間と時間をかけても、顧客満足度は一切上がりません。これらの自動化は、どの企業にとっても成長のカギを握っているのではないでしょうか」(宇根氏)

他にもIT化の利点は多い。従来は一人ひとりがアナログ的なやり方で仕事を進めていたため、業務が属人化する傾向が強かった。しかしクラウド型サービスを使って仕事をしている今は、知識やノウハウが会社全体で共有され、蓄積できるようになったのだ。サーバー維持費などの固定費を、サービスの月額費用という変動費に変えられたのも大きなメリットだった。

宇根氏は今後も、IT化の取り組みを進めるつもりだ。

「業務フローのどこかを自動化できると、『他にも自動化できる業務があるのでは?』と疑問を持つものです。例えば、当社の受注業務は大幅な自動化に成功しましたが、その後に行っている発注書の発行・送付は、手作業で印刷してファックス送信というやり方にとどまっています。当然、『受注が自動化できたのだから、その後の業務も自動化できるよね』と考えますよね。そこで今は、基幹システムをカスタマイズして発注書の作成からファックス送信までの過程を自動化しようと取り組んでいるところです。

現在の当社にとって、主力事業は卸売業です。しかしいずれは、『沖縄に関するヒト・モノ・コトが集まる会社』になりたいと考えています。『やちむん』などのBtoC事業に乗り出したのは、そうした取り組みの一環です。また、たくさんの飲食店から集めた情報を分析し、飲食店に『今はこの食材が消費者から人気ですよ』『この地域ではこんなメニューづくりがお勧めですよ』などと提案するコンサルティング事業なども手がけたいですね」(宇根氏)

「アドバイザーの方から、一足飛びではなく身の丈に合った改善を一歩一歩進めるべきだと助言を受けたおかげで、社内に知見を貯めながらうまくIT化を進めることができました」(宇根氏)

企業情報

社名
株式会社香那ホールセール
所在地
東京都大田区大森南4-10-17
設立
2007年
事業内容
沖縄食材の卸売業、工芸品や食品の販売など
資本金
1000万円
従業員数
20名