2023.11.09
老舗紙卸会社が踏み出したデジタル変革の第一歩!
東芳紙業株式会社〈小売・卸売業〉
東芳紙業株式会社(以下、同社)が本社を置く「神田神保町」は、本屋が立ち並ぶ“本の街”として知られ、印刷会社や出版社など“紙”を取り巻く企業が数多く存在している。同社は用紙メーカーなどから用紙を仕入れ、印刷会社・出版社に販売する卸売業として、60年以上にわたって営業を続けている。印刷・出版業界は古くからの商慣習も多く残っており、出社規制のあったコロナ禍でもFAXや手書きによる受発注が行われていた。こうした事態に、代表取締役の境和彦氏はデジタルツール導入による業務効率化を考え始めた。
境氏は2020年に東京都中小企業振興公社(以下、公社)のWebセミナーを受講。その際に公社職員から、デジタル技術活用推進事業(以下、当事業)を紹介されて、専門家の支援を受けることにした。
嬉しい誤算!追加投資もなくデジタル化を実現
~取引先の協力を得てシンプルに問題解決
同社は公社の専門家の支援を受けて、パソコンの事務作業を自動化できるソフトウェアロボット技術「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を補助金で導入した。売り上げのデータは表計算ソフトExcelのデータとして持っていたが、販売管理システムにデータを移し替えるのは手作業だった。この作業をRPAに任せることで、作業に掛かっていた時間は別の作業に使うことができ、手作業による誤入力も減った。
当事業で着手したのは、月末の照合作業。毎月送られてくる仕入れ先からの大量の請求書を社内伝票と照合するのは通常業務と並行に行っており、照合作業だけに集中はできなかった。作業を中断されることも度々あって必要以上に時間がかかり一苦労だった。 「請求書は会社によって書式が異なり、同じ紙の銘柄でも表記が違ったり、全角半角が混在したり、書類照合のデジタル化は諦めかけていました。しかし公社の専門家に相談したところ、“データベース管理ソフトで問題解決ができる”と使用を勧められました。新たにデータベース管理ソフトを導入するために費用を覚悟していましたが、Microsoftと年間契約をしていることから、導入しやすいデータベース管理ソフト『Access』を利用することにしました。追加投資もなく導入できたことはとても大きかったです。Excelで作成している社内書類と連携させやすいメリットもあり、大変ありがたかったです」(境氏) 「今回、RPAを導入して、さらにExcelとデータベース管理ソフトを連携させたことで、自動化できる用途と範囲が広がり、各社へ提出する書類作成も大幅に時間短縮が図れるようになりました」(境氏) データベース管理ソフトの導入に向けて、社内のExcel書類を連携しやすいように作成方法を変更するなど環境を整えるなかで、問題となったのは、各社で統一されていない書式の中で何を“キー”にして情報を照合させるか?だった。 「解決策として、請求書に伝票発注番号を記載してもらうことにしました。この業界では納入先への伝票に発注番号を入れる慣習があるので仕入れ先に発注番号の記載をお願いして、発注番号を“キー”にすることでデータ照合がスムーズに行えるようになりました。システムを複雑化するのではなく取引先に協力してもらうことでシンプルに問題が解決できました」(境氏)アプリごとの特性を活かして連携
~確認しながらのコピー&ペーストから解放
同社では出版社や新聞社などにも印刷用紙を卸している。新聞など数多くの印刷物を刷る大型印刷機には、巨大なロール紙(巻き取り紙)が使われており、月末になると、印刷所に翌月のロール紙を何本納入するか予定を知らせるのが業務の流れとなっている。ロール紙は、印刷される部数やページ数の増減などにより、予定数よりも追加されることもあり、その都度、納入数が修正される。
「A社はロール紙を何本、B社は何本といった具合に、月末は複数の納品書を確認しながら当月の“請求”と次の“仕入れ”を手配しており、照合作業は大変でした。また納品書・請求書も取引先によって記述内容が異なるので、それぞれ金額や品名など必要な項目をコピー&ペーストをしたり、入力したりとアナログな手法で書類作成をしていました。人間が行う作業ですから、作成した書類は一つひとつ間違いがないか確認します。その確認だけでもちょっとした手間でした」(境氏) 今回、データベース管理ソフトを使うことで、会社別・メーカー別・印刷工場別・月別など、書類作成に必要な情報だけを抽出できるようになった。各社の書類形式に合わせて抽出されたデータをそのままコピー&ペーストをするだけで納品書・請求書が完成する。これまでのように書類の各項目を確認する手間が減った分、誤ったコピー&ペーストや転記ミスを確認する時間が短縮された。(図1参照)図1
同社では用紙を一括で仕入れ、取引先ごとに見比べて納めている。印刷所に納める際、先方から何日の何時に納品して欲しいと指定を受けるため、印刷会社ごとの納品スケジュール表を見比べながら納品管理を行っていた。各社の納品スケジュールもデータベース管理ソフトで管理することで、各社・各案件のスケジュール表を見ずとも、欲しい情報を抽出した管理画面を見るだけでスケジュールの把握が可能となった。
「従来は複数のExcel書類を一つひとつ開いて内容を確認していましたが、データベース管理ソフトを使うとボタン一つで必要な情報だけを、画面に表示できます。データベースへの情報登録もExcelでマスターとなるデータを作成して、そのままデータベース管理ソフトに貼り付けるだけと簡単です。会社の書類はExcelで管理していたので、基本的な事務作業もこれまで通りです」とデジタル化推進の担当社員は言う。月末決算が最短30分に!
~難しかった月末の出張も可能に
同社では事務作業のExcelを使って書類のデジタル化を進めていたが、データベース管理ソフトの導入でさらに業務効率も上がった。
「“なぜ、すべてをデータベースソフトにしないの?”と疑問があるかもしれませんね?」と境氏は言う。
図2
RPA、データベース管理ソフトの導入などデジタル化を進めたことで影響があったことについて伺った。
「月末業務が大幅に短縮されました。通常業務の合間に行って1週間近くかかっていた作業が、現在は数時間で可能です。これまで元書類を見比べたり、電卓を叩いたり、確認作業が大半を占めていましたが、データベース管理ソフトを導入したことで軽減されました。月末決算は自動化によって販売管理システムからデータを抽出して会計ソフトに流し込むだけで、最短30分で終えられます。これまでは不可能だった月末の出張もできるようになったのは大きいです」(境氏)デジタル化でさらなる発展へ!
~学んだ知識を横展開
専門家からデータベース管理ソフトの設定や操作方法を学んだ担当社員は、学んだ知識がほかのツールにも活かされていることを語った。
「今回、専門家のアドバイスを受けながら、社内情報を共有するグループウェアを導入しました。社員の休暇申請・会議室の予約など、グループウェアの設定を行いました。タイムカードの打刻を勤怠管理に反映させる時に、データベース管理ソフトで学んだことが役立ちました。データベース管理ソフトの構造が理解できたおかげで、“どのデータを抽出して、どう反映させればいいのか”など感覚的に分かるようになりました」(担当社員)新しいデジタル化の可能性
~デジタル化して得られた”大きな恩恵”
「通常業務の隙間時間に行っていた事務作業が、デジタル化のおかげで時間短縮できた恩恵は大きい」と境氏は語る。業務時間の短縮や、在宅ワークや出張でも業務を行えるようになったことで違う業務を行えたり、新しい業務のアイデアを考えたりする時間が増えたと言う。
最後にデジタル化を検討している中小企業に向けたアドバイスを伺った。 「今でもFAXや紙伝票によるアナログな取引が残る業界にいる弊社は、“デジタル化と無縁だ”と思っていましたが、意外とデジタル化できることはあります。公社の支援がきっかけで新しいデジタル化の可能性を知ることができました。とにかく、“何かやってみよう”と興味を持つことが大事だと思います」(境氏)企業情報
- 社名
- 東芳紙業株式会社
- 所在地
- 東京都千代田区神田神保町2-2-34 千代田三信ビル8階
- 設立
- 1959年
- 事業内容
- 和洋紙卸業、印刷用紙や新聞用紙を印刷所・出版社に販売
- 資本金
- 4,550万円
- 従業員数
- 6名