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2022.11.29

産業用ロボットが中小企業にもたらす “超”明るい未来について

日本サポートシステム株式会社 天野 眞也 氏

産業用ロボットを導入して業務を自動化することは、中小企業が抱えるさまざまな問題を解決へと導く糸口になると言われています。
生産性の向上や人手不足の解消にとどまらない、あっと驚くような未来へとつながるその無限の可能性について、業界のトップランナー、日本サポートシステム株式会社 代表取締役社長 天野 眞也 氏にお話を伺いました。

天野 眞也 氏(あまの しんや)


プロフィール

  • 日本サポートシステム株式会社 代表取締役社長

キーエンスを経て、中小企業にサービスを提供するFAナビ創設。その後、FAプロダクツ会長、ロボコム社長を兼任、2018年より現職。同社を取引実績40社以上、製造実績1万台以上を誇る関東最大級のロボットシステムインテグレーターに成長させた。現在、製造業のDXから生産ラインの開発・実装までを包括的に支援するコンソーシアム(複数の企業が“共同事業体”としてサービスを提供する)「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」プロデュース統括として日本のものづくり産業を元気にするための旗振り役を務めている。

人の作業はロボットに託せる時代

―― 現在、産業用ロボットの技術はどこまで進んでいるのでしょうか?

「人ができる作業ってどこまでロボットで置き換えられるんですか?」とよく聞かれるんですが、僕は「全部置き換えできますよ」とお答えしています。もちろん、完全にすべてではないですが、でも8~9割はロボットでの代替が可能になっています。逆にロボットに任せた方が良いケースも多いんです。

工場作業って、人間にとって非常に過酷な状況である場合が多い。例えば金属加工など、5m先が見えないほど油煙が舞っているようなところで作業するのは、体に良いわけないですよね。お弁当の盛り付けなどもそうです。食品が腐らないように、冷蔵庫に近い室温のなか、宇宙服のようなものを着てずっと立ち仕事をするのは大変です。 ペットボトルの水って買ってくるのが大変だから、僕はいつもネットで注文します。2Lのペットボトルが9本入っていると18kgですよね。
そういったものを物流倉庫で積み替えする作業は、2、3年もやると大抵の人が腰を痛めてしまうそうです。そういう作業はロボットに置き換えた方が働く社員の安心感も違ってきます。

―― ロボットで代替するのに適さない作業には何がありますか?

例えばお弁当を盛り付ける際、単純に具材を乗せるということであれば良いのですが、「美しく盛り付ける」となるとそれほど得意とは言えないかもしれません。審美性とか芸術性といった、人が感性だけでやっているような仕事をロボットに置き換えるのは、なかなか難しい面があります。でも逆に言えば、ロボットに適さないのはそれぐらいです。

人間は作業しながら仕上がりもチェックできますが、ロボットにはそれができません。作業は作業オンリー、検査はまた別になります。ただそれは、画像処理を組み合わせるなどすれば十分に対応可能となります。

手・目・頭脳など、各役割を組み合わせて設計

―― 組み合わせれば人の手が入らなくても大丈夫ということでしょうか?

組み合わせれば全く問題ないです。産業用ロボットを人の体に置き換えて説明すると、基本は肩から手首までだけ。頭も目も足もないです。

そこに、例えばものをつかむ部分をつけるとします。その場合、つかむのが紙なのか、金属なのか、あるいはポテトサラダのような柔らかいものなのかによって、それに合う「ハンド」を開発したり、市販のものを買ってきて組み合わせる必要があります。

ロボット単体は目がないので、少し位置がずれてしまうと、ものが取れなくなってしまう。そこでカメラに目の役割をさせて、xyzの座標軸を決めて取りに行くようにします。 さらに「つかんだ後はどうするのか?」という頭脳の役割をするコンピューターも組み合わせる必要があります。こういったことが、我々の行っている産業用制御機器の組み合わせ技術なんです。 ロボットに代替させる作業の工程によって、組み合わせるものはすべて異なります。我々は現場を見て、「あれをつかむためには、こういうハンドが必要だよね」などと言いながら、全体の構想設計をします。数百グラムのものを高速で動かす場合と、数百キログラムといった重いものを運ぶのとでは、必要な機能が全然違いますから。 また画像処理ひとつとっても、カメラやレンズ、照明に至るまでさまざまな選択肢があるので、産業用ロボットを導入する際には、各工程において適したものを複合的に選定しながら設計していく必要があります。

日本サポートシステム株式会社 天野 眞也 氏

―― 中小企業が産業用ロボットを導入して業務のパフォーマンスを上げている具体例を教えてください。

最近だと、炭が詰まった重たい麻袋を搬送する業務に我々がロボットを導入させていただいて、作業が楽になったというケースがあります。

また鉄鋼関係の会社では、鉄鋼を針金でしばる工程をロボットで代替させていただきました。この作業は、夏はものすごく暑くて冬は凍えるほど寒いという厳しい環境下で行われていたので、ロボットに置き換えられてとても良かった例だと思います。 でも実は、中小企業が産業用ロボットを導入して事業のパフォーマンスを上げているケースは、まだそんなに多くはありません。 技術的には、手作業でやっている仕事に関しては、ほぼロボットで代替できます。導入に壁があるとすれば、それはやっぱりコスト面です。産業用ロボットの導入にかかるコストをどう回収するのか、という点がポイントなのではないでしょうか。

ロボット導入で好循環を起こそう

―― 産業用ロボットを導入する場合、だいたいどのくらいのコストがかかりますか?

産業用ロボットは最低でも数十~数百部品を組み合わせることになるので、それなりのコストは発生します。しかし、ものは考えようです。

例えば30人働いていて、それぞれ月給が30万円だったとすると、月に900万円、年間で1億円ちょっとかかるわけです。それの5年分といえば5億円です。 一方、ロボット設備に30人分の仕事をさせようと思ったら、5億円くらいあればできます。しかし、「5億円を今すぐ払う」というのが難しい。中小企業は、人件費のような毎月発生するような費用は払えるけれど、設備費としてまとまった費用は用意できないケースが多い。 中小企業がロボットを使った自動化設備を導入するためには、そのコストを変動費化しないといけない。いわゆるリースやレンタルといった方法を活用するのがポイントかなと思っています。我が社もリース会社と提携して、そういったサービスをしています。 もう一つ問題なのは、ロボット設備を導入後に誰がメンテナンスするのか、ということです。その会社で新しくメンテナンスできるような人を採用しようと思っても、実際は人手不足のため難しいのが現状です。だから我々はロボット設備を入れたら、メンテナンスもセットで提供します。中小企業さんが自動化設備を導入する際は、そこも考慮する必要があるわけです。 今、日本では毎年数十万人くらいずつ生産年齢人口(15~64歳)が減っています。労働力としては女性の活躍や定年延長などでカバーしているわけですが、それでも生産量を維持するには限界があります。結果、減った労働力を何で埋めるかといったらロボットで埋めるしかないんです。ロボットが普及すると、人の仕事が奪われるのでは?と危惧する声がありますが、日本においてその心配は無用です。労働力の不足をロボットで置き換えてしまうだけですから。

日本サポートシステム株式会社 天野 眞也 氏

―― そうなると、もはや産業用ロボットの導入は必須ということでしょうか?

中小企業の経営者の皆さんには「5~10年後に会社をたたむつもりがないのであれば、1日でも早く産業用ロボットを使った自動化設備の導入をされた方が良いですよ」とお話しています。逆に自動化せずに、今後何十年もどうやって作業を続けるおつもりなのか不思議になります。

中小企業の経営者は皆さん「人を採用できない」「優秀な人が集まらない」とおっしゃいます。でもそんなの当たり前ですよね。人が減っていくなかで、厳しい労働環境のままでいるのですから。しかし、いち早く最先端の技術を取り入れれば、そういう技術に触れたいという人材を採用できます。例えば地元の工業高校を出た若者が、工場の自動化に興味を持って入社を希望するようなケースが出てくるでしょう。 そして自動化によって体力的に厳しい作業がなくなり、労働生産性が上がって、会社の利益も増えるとなれば、それなりの給料も出せるわけですよね。これから中小企業が生き残るためには、そういう良い循環をつくっていかないといけません。

―― 産業用ロボットを導入することで新しい職業が生まれるということですか?

確実に新しい職業が生まれますね。例えば、地元の若手が入って実際に工程を自動化していくとなると、当然ロボットも動かせるし、画像処理の設定もできるようになる。つまり自動化構想ができるエンジニアに育っていくんです。

今はデジタル化によって、あらゆるものやことが大きく変わっていく時代です。例えば、飲食店や旅行の予約サイトを思い浮かべてみてください。もはや実際にレストランやホテルを下見してから予約する人なんていなくて、すべてデジタル上で完結するわけです。 だからネットでレストランを予約して行ってみたら、ビルの7階とか8階にあるお店だったりする。昔だったら、いくら銀座でも7階や8階には高級会員制クラブのテナントしか入らなかったわけです(笑)。今はリーズナブルな居酒屋がビルの上の方に入っていても集客に困らない。これはデジタル化によってトランスフォーメーション(変革)が起きた好事例ですよね。 工場もまったく一緒で、産業用ロボットの導入を含めたデジタル化を進めていくと、それを活用した次の改革が起こっていく。画像処理カメラやAIを中小企業に導入する過程で知識をためた人は、次のステージで活躍できる人材になります。これからは、そんなクリエイティブな人たちが増えていくことでしょう。

日本サポートシステム株式会社 天野 眞也 氏

世界に誇れる日本ブランドにチャンス到来

―― 産業用ロボットによる自動化システムの構築に投資することで見える未来を教えてください。

ロボットを1台入れたから、明日からすべて製造工程が自動化できるなんてことはありえません。中小企業の経営者は、少しずつ自動化技術を入れながら、自分の工場がどういう風にデジタル化していけるのか、市場に対してどんな価値を提供していけるのか、考えていかないといけない時代です。

でもこれは脅威ではなく、むしろチャンスです。親会社はこれから絶対デジタル化します。でも、デジタル化の先につながるサプライヤーがいません。「うちはFAXで受発注やっています」という状況ではつながりようがなくなってくるんです。 そこで親会社は、自分たちのサプライチェーンを守るために中小企業に投資するようになると思います。お互いがデジタルでつながれば、ボトルネック(業務の停滞や生産性の低下を招く箇所)が明確になり、「ここに投資をすれば納期が早まって、売り上げを獲得できる」とわかるから。 逆に言えば、中小企業がデジタル投資をしておけば、親会社のシステムに連結できるため、多少部品が高くても発注がくるようになります。さらに親会社だけの関係ではなく、新たな納入先も増えてきて、企業経営の安定につながるでしょう。 また、これからはカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)と言われるように、製品を作る上での環境負荷を明示しないといけなくなります。一番わかりやすいのはAppleで、iPhoneは再生エネルギーで作った部品以外は使いません。デジタル投資をしっかりしておくと、1つの部品あたりの環境負荷が定量的に出せるようになります。サプライチェーンのなかでも選ばれる企業になる可能性が高まります。 実は、日本に大きなチャンスがやってこようとしています。今ヨーロッパ主導で世界的に「環境に配慮していない製品は買わない」というムーブメントが起こっています。日本には世界に誇れる唯一無二のブランドがある。それは「安全・安心」です。つまり日本の製品は、環境への配慮との親和性が高いんです。 日本は、クールさを売りにするようなカッコいい製品を生み出すのは苦手だったけれど、それが部品となったとたん、「安全・安心」という日本ブランドが力を発揮します。中小企業は今こそ、デジタル化をもっと進めて世界中のメーカーから選ばれるサプライヤーになってほしいと思います。

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