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2024.02.08

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者!

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者

現在、注目を集めている「リスキリング」。これから中小企業の多くが業務のデジタル化に取り組もうとしているなか、デジタル化推進に必要なものが人材(従業員)の「スキル」となる。「リスキリング」とは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと。経営戦略の転換に応じた人材は必要不可欠な存在である。しかし、大企業と異なり制約も多い中小企業ではどのように従業員のリスキリングを進めていいのか悩んでいる経営者も多いのではないだろうか。今回、中小企業のリスキリングについて導入事例や考察などを報告書にまとめたリクルートワークス研究所 主任研究員 大嶋 寧子 氏に話を聞いた。

大嶋 寧子 氏(おおしま やすこ)


リクルートワークス研究所 大嶋 寧子 氏

プロフィール

  • リクルートワークス研究所 主任研究員

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる成長調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)。
関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。

急速な技術発展と人材獲得競争の激化

―― 「リスキリング」はいつ頃から注目されるようになったのでしょうか?

2018年より、世界経済フォーラムは官民連携して世界規模で働く人の能力の再開発、つまり「リスキリング」を行うべきと訴えてきました。国内でも2022年辺りから大手検索サイトの検索件数で「リスキリング」という言葉が急速に増え、政府が重要な政策と位置づけたことによりいまでは多くの方が知ることになりました。

「リスキリング」が注目された背景は2つあります。 1つ目は、AIやデジタルテクノロジーが導入されることによって、人の仕事が代替されてしまう技術的失業への懸念です。
技術発展が急速なため第4次産業革命と呼ばれるほど非常に大きな影響が懸念されています。 2つ目は、企業のデジタル化が急がれる中で人材の獲得競争が激化し、企業の外からの採用が厳しくなったことです。
企業内の人材を再教育して会社が目指す方向性に沿ったスキルを身につけてもらうべきという意見が高まってきました。 また従業員へのリスキリングは、企業にとって“社内カルチャーを理解している・定着率が高い・採用コストに比べたら安い”などといったメリットが明らかになって、企業戦略として「リスキリング」を導入する気運が高まっているのも理由だと思います。

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者

リスキリングは経営課題の解決手段

―― 企業や従業員にとってリスキリングに取り組むことで得られるメリットとは何でしょうか?

リスキリングは手段なので、メリットやデメリットの話は適切ではありません。個々の企業が自社にとって切実な経営課題の解決のために、デジタル化やグリーン化(自然資源や生態系などの地球環境に配慮した経済活動)が必要であり、その手段が“リスキリング“という位置づけを忘れないことが大事です。

例えば、労働力不足で「新規の仕事が受けられない」「長時間労働になって多様な人材が働けない」などの課題を抱えている企業があるとします。その企業が労働力不足の克服や多様な人材の活躍という経営課題に取り組む手段として今、最も可能性が高いのがデジタル化、特に“徹底した自動化”です。そして、これを人材面で可能にするのが「リスキリング」なのです。企業としては変革をやらないと生き残れないから従業員の「リスキリング」を行います。リスキリングは課題解決における手段なのです。 従業員がリスキリングで新たなスキルを得て転職してしまうのではないかと心配される経営者もいますが、実現すべき目標や経営課題がはっきりとしていれば、従業員としても“やらざるを得ない”という関係になります。企業は従業員に対して新しいスキルを身につけることで、経営課題が解決し従来の働き方が改善されることを、きちんと説明することが大事です。 また、学ぶことが本人の成長機会になること・働きやすくなることが理解されていれば、離職する従業員も少ないと思います。

リスキリングを推進する3つの鍵

―― 「リスキリング」を推進する“鍵”は何でしょうか。

これまで企業に聞き取り調査をして分析した結果、リスキリングは3種類あると考えています。

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者

1つ目の「使いこなしのリスキリング」は、従業員が新たな業務プロセスに習熟してこれまで通り価値の創造をできるようにすることです。
これには職場全員が導入した新しいツールを使いこなせることが大事です。1、2人使いこなせない人がいるだけでも実現したかった生産性の向上が達成できません。

全従業員が使いこなせるようにするのは大変なことですが、デジタルツールを使うと“自分たちの仕事がこれだけ良くなるんだ”という成功体験をすれば、“じゃあ次も受け入れよう”というマインドが形成されて、その後のデジタル活用の推進にも弾みがつきます。デジタルツールは1つ導入したら終わりというわけにはいかず、より生産性を高めるためや技術の進歩などにより、進化していかなければいけません。社内にデジタル活用のマインドを醸成させる意味でも、「使いこなしのリスキリング」を丁寧に行っている企業は多いです。 2つ目の「変化創出のリスキリング」は、従業員自らデジタル技術の活用方法を描いて企画推進できることです。
現場の非効率な状況やお客様からの不満といった“価値のある変化の種”は、現場にいる従業員が一番熟知しています。現場の一次情報を持つ従業員が、デジタル技術を活用した解決策をイメージし、提案・推進出来ることが極めて重要です。従業員はプログラミングが出来なくてもエンジニアと一緒に要件定義を行うなど企画をまとめ、「DXは自分たちで考えるもの」という認識を醸成することがこのリスキリングの目的です。「現場の知見」に基づかないDXは失敗しやすいと思います。 3つ目の「仕事転換のリスキリング」は、DXの進化によって企業が全く新しいビジネスモデルに移行しようとする際、従業員が新たな仕事に移行するためのリスキリングです。従業員はこれまでの仕事に関わる経験やスキルの多くを捨てることを求められるので、新たなスキル習得の必要性を明示し、出口(評価との接続、実践の機会)が見える学びのプロセスを設計します。経営者が新たな仕事への移行と学びの必要性について丁寧に説明を行い、自らが先に学んでみせて、学ぶことが当然という空気を作るのも大事です。希望者から機会を与えると、円滑に進みやすいと言えます。 また、上記3つに加えて「経営者のリスキリング」があります。経営者自身がデジタルを知り、自社での必要性を明示できなければ、現状維持を望む人々の行動やマインドセットを変えて変革を続けることは困難です。

会社をまとめるのは経営者の“本気”

―― 「リスキリング」実施にあたっての課題はありますか?

時間をかけてステップを踏まざるを得ないと思います。まずは小さいところから始めて、その効果を見せながら少しずつ実践で学んでもらうことです。ちょっとしたデジタルツールの導入から始め、作業効率を上げ、もう1歩先のリスキリングの時間を取れるようにするとか、従業員にデジタルの利用価値を見出してもらうとか、少しずつ社内に業務効率化へのマインドを醸成していく必要があります。

例えば、デジタルツールで業務効率化の効果が出やすいチームだけに先行導入して、その結果だけを貼り出しておくことで、“あそこのチームが出来るなら、うちのチームも”と気運を高めた会社もありました。 最初、デジタルツールを導入する際は「新しいツールを学ぶ時間なんてないよ」という反応はあると思います。そこは経営者が率先してデジタルツールの価値やメリットを理解して言葉にしないといけません。経営者自身が業務アプリを使ってどれだけ作業を効率化できるのか見せて意欲を掻き立て、自分の会社にとって新しい取組がなぜ必要か?そのために何を学んでもらわなきゃいけないのか?ということをしっかりと説明することも必要です。 これまでの仕事のやり方を捨てて新しいことを学ぶことに苦痛を感じる従業員も多いはずです。営業職の人が取引先へ地道に足を運んで人間関係を構築してきた仕事術を“これからはすべてオンラインで行いなさい”と言われれば苦痛だと思います。経営者は、従業員がこれまで蓄積してきた仕事のノウハウを捨てて、新たに一から学ぶことに“痛み”を感じることを理解したうえでリスキリングに取り組むことです。従業員の不安な気持ちや抵抗感と向き合うことが大事です。 中小企業の場合、経営者の影響力が段違いに大きいと思います。経営者は、業務のデジタル化が会社にとって死活問題であることを、本気になって何度でも繰り返し発信して初めて、従業員も自分が変わろうと思うことができるのではないでしょうか。

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者

リスキリングとは“従業員の自主性を育む”環境づくり

―― 企業はどのような人材育成を行うべきでしょうか?

企業経営者に聞いた話ですが、すでにDX導入に成功している企業を訪問すると、必要な経営データが共有されていました。従業員は上からの指示ではなく、データに基づいて自分の意思や考えで判断ができる組織だったそうです。従業員がデータから経営で必要だと感じたら、業務改善の提案を行うことも、新たなスキルを学ぶことも自分で判断できる環境だったそうです。

人材育成とは違うかもしれませんが、従業員が自分で考えて行動できる環境は大事かもしれません。従業員が“こうしたら業務が効率的になるんじゃないか”と業務改善の提案をしたら、企業はそれを受け止めて、必要な学びの機会を提供するなど実践的な支援ができるような企業風土があるといいですね。

中小企業におけるリスキリングの“成功の鍵”を握るのは経営者

必要な「学び」を選ぶことが最初の一歩

―― 最後、「リスキリング」に取り組もうとしている中小企業経営者にアドバイスをお願いします。

中小企業は余裕がないからこそ、絶対に実現しなければいけないことを明確にします。実現のために絶対に必要な「学び」を選ぶのが最初の一歩です。逆に言えば必要のない「学び」はやらず、価値のあることに集中して投資することです。

繰り返しになりますが、経営者自身のリスキリングが一番大事ですし、難しいと思います。従業員へのリスキリングであれば、“会社にとって必要なこのことを学んでください”と明確なのですが、経営者のリスキリングは、何を学んだらいいのか誰も教えてくれないので、挫折する方もいます。 経営者は幅広く学ぶのではなく、従業員やお客さんのために実現しなければいけないことを明らかにして、事例や必要なスキルを調べます。「本当にうまくいくのか?」と調べたければ、東京都中小企業振興公社など公的機関の相談窓口に相談しながら自社に必要なものを絞り込んでいくプロセス自体が「学び」になると思います。

【公社は中小企業のデジタル化を応援します!】


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