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2023.01.11

デジタル化への投資が
新たなビジネスチャンスを生む!

経済産業省 商務情報政策局 奥村 滉太朗 氏

デジタル化やDXの推進が声高に叫ばれていますが、実際はまだ着手できていない中小企業も数多く存在します。中小企業にとって、デジタル化やDXがもたらすメリットは何なのか?また国からはどのようなバッグアップが用意されているのか?経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課(ITイノベーション課)奥村 滉太郎 氏にお話を伺いました。

奥村 滉太郎 氏(おくむら こうたろう)


経済産業省 商務情報政策局 奥村 滉太朗 氏

プロフィール

  • 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課(ITイノベーション課) 課長補佐

東京大学法学部卒。2015年経済産業省入省。2018年より内閣官房に出向し、まち・ひと・しごと創成本部において地方創成関連施策の企画調整及び地域におけるしごとづくり施策の設計を担う。2020年6月に経産省に帰任。コロナ禍におけるイベント業界の需要喚起施策やクールジャパン関連施策担当課長補佐。2021年6月よりワクチン職域接種の推進に従事し、同年10月から情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長補佐として企業領域におけるDX推進を担当。

日本企業の活力アップを応援

―― 経済産業省におけるDX推進への取り組みについて教えていただけますか?

デジタル庁が社会全体におけるDX推進を担っているのに対し、経済産業省では、“日本企業のため”のデジタル化やDX推進の後押しを担当しています。

デジタル産業の基盤となるハードウェアや半導体の育成等にも携わっているのですが、わかりやすい活動としては、「日本企業がデジタル化に投資することで、もっと産業全体が活性化するように一生懸命応援する」といったことをやっています。 この20~30年でデジタル技術が進歩し社会も変化して、我々ができることは大きく変わりました。その一方でAIやビッグデータ、クラウド、データサイエンスなどの言葉が一人歩きしていて、「結局なんだっけ?」という方も多いのではと思います。 でもよく考えてみれば、ビジネスの本質は何千年も前から何ら変わっていないんですね。「隣の人の作った石器より、うちの石器の方が出来が良い」みたいな(笑)。つまり、お客さまに対して、よりニーズを満たした、付加価値の高いものを提供するのがビジネスです。 ですから、そのビジネスの本質に真正面から向き合った上で、「便利な技術を駆使して、いろんなことやっていきましょうよ」というのがDXの本来あるべき姿だと考えています。ただ残念なことにここ数十年で日本企業がどんどんデジタル技術を取り入れていったかというと、そうでもないのが現状です。 デジタル化に一度取り組まれた会社でも、結局「やっぱりいいや」となってしまうケースも多く、それが非常にもったいない。個社で見てもデジタル化でできることはたくさんありますし、日本産業全体としても、もっとデジタル化に投資して活力を上げるべきで、そのためにどうすれば良いかということを考えながら施策を行っています。

デジタルの力で商圏を拡大

―― DXを推進することで企業が得られるメリットや優位性について、具体的に教えてください。

僕は長崎県出身ですが、幼少期に父が車で30分かけてビデオ屋さんへビデオを借りに行っていました。今はもう、みんなサブスクリプションサービスで映画を見るようになり、時間をかけてビデオ屋さんへ行く人ってほとんどいなくなりましたよね。

本屋さんも同じです。昔はお父さんが機嫌の良いときに「本を買っていいぞ」と言うと、喜んで街の本屋さんに行ったものですが(笑)、それも今はネットで買う時代です。 つまり、売る側から見れば今まで自分のお店のある範囲の人にしかアプローチできなかったのが、デジタルを使うことで、日本中、さらには世界中の人にアプローチできるようになったわけです。 例えば「おいしいものを作ってお客さんの人生を豊かにしたい」というパーパス(企業の存在意義)を持って一生懸命がんばっている和菓子屋さんがあったとして、もし商圏の人口が減ってしまっても、今の時代、経営をあきらめる必要はないんです。デジタルの力を使えば、そのお菓子で幸せにできる人を増やすことは十分可能なわけで、そういう意味では本来やりたかったことを続けたり、さらに発展させられるのがデジタル化のメリットだと言えます。 数十年前まで、日本中にモノを売るためには電話やFAXで注文をとる必要がありましたし、そもそも遠方の人に認知してもらうだけでも相当大変だったと思うのですが、今はInstagramやTwitter(X)などのSNSで広めてそのまま販売できてしまう、そういう世の中です。

経済産業省 商務情報政策局 奥村 滉太朗 氏

DXで広がるビジネスチャンス

―― その他、業務をデジタル化することで得られるメリットにはどんなものがありますか?

何代も続いている飲食店があり、そこが代替わりするときに、「このまま続けるのは難しいな」と気づいてデジタル化を取り入れたんです。そのお店は長い歴史がある分、「こういう気候の日はお客さんが増えるから多めに米を炊こう」といったなんとなくの慣習があったのですが実際に天気や来店人数などのデータを入力して記録し、後から検証してみたところ、まるで違うことがわかったそうです。たくさん人がくると言われていた天候の日に、実際はそんなことなくて、3升炊いたお米が2升余ったり…。

そうやってデータで検証してみると、正しくなかったことがわかった一方で、正しいことも色々見えてきて、社員の人たちも「これは役立つね」と積極的に手伝ってくれるようになったそうです。さらに「もっとどんどんデータを分析してみよう」となり、勉強してコードをかけるような社員さんも出てきた結果、来店予測がかなり正確にできるようになり、次はそれをプロダクトとして、他店に販売するという話につながりました。 このように、業務をデジタル化することで得られるメリットは大きく2つあると思います。
1つはデータを活用することで、より確実にビジネスチャンスを活かせるようになること。
もう1つは実際のデータをフィードバックしながら精度を高めたことで、同じ悩みを共有する企業に向けた新しいプロダクトが完成すること。 つまり、自社の効率化のために試行錯誤した結果、それが新しいサービスにつながる可能性があるということです。いつの間にか新しくデジタル事業ができていた、みたいな感じですね。

―― いち早くデジタル化やDXに取り組むことで、新しいビジネスチャンスが生まれるということですか?

Amazonは、一般にはEC(電子商取引)やコンテンツサービスが有名ですが、IR資料なんかを見ると、今いちばん利益率が高いのは、実はAWS(アマゾンウェブサービスの略/クラウドプラットフォーム)の方なんです。

もとは主事業であるECを世界中で滞りなく展開するために、必要に応じていろんなものを作ってきた結果できあがったプロダクトです。 デジタルサービスって作るまではかなり大変ですけれど、仕組みさえできてしまえば、拡大にあたっては比較的限界費用も少なく済み、利益が上がりやすい。ビジネスチャンスとしては大きいですよね。

目標達成のためにデジタルを活用

―― 中小企業がDXを始める場合、まず何から着手してどういうステップで進めていくと良いのでしょうか?

経済産業省から中小企業向けに、 「中堅・中小企業向け『デジタルガバナンス・コード実践の手引き』」という手引き書を出しています。そこに「DXに取り組む企業はこういうことをしましょう」という内容がまとめてありますので、まずはそれを手に取っていただければと思います。

デジタル化でありがちなのは、例えば社長が同業者の集まりに出かけ、「AIって良いらしいから、うちもやろう」と帰ってきて営業部長に指示し「AIで何かしなくちゃ」というミッションを課された部長さんが若い社員を呼んで、「ちょっとAIで何かやってくれないか」と言う。それだと組織は動けないですよね、だって何がしたいかわからないわけですから。

やはりまず最初に、「AIを使って何をしたいのか」ということを考える必要があります。
冒頭で申し上げたように、ビジネスの本質は、「お客さまにより付加価値の高いサービスを提供するために日々努力する」ということですよね。

そのためにも「お客さまに提供したい価値は何か?」「うちの会社の存在意義とは?」といった、いわゆるパーパスを見つめ直し、その上で、「5年後10年後にどうなっていたいか」というビジョンを作っていただくのが良いと思っています。

中小企業の皆さまはご家族や従業員の生活そして会社の未来のために、毎日一生懸命お仕事をされていると思うんですが、今日明日のことではなく、もっと中長期的な視野で「今後、どうしていきたいのか」をぜひ考えてみてください。

目標ができたら、今度はそれと現状の差を埋めるために、「どうやったら実現できるかな」という視点で戦略を練りましょう。
例えば、ECを始めてみるとか、お客さまのニーズを知るためにマーケティングツールを使ってみるとか。今は無料の携帯アプリでもいろいろありますから、そういったものを調べながら試してみたり。専門的で難しいことは、必要に応じて外部の方に相談して、その流れでITツールを導入するのも良いでしょう。いずれにしても「まず戦略を作り、それを実行するために何が必要なのか」という視点が大切だと思います。

―― 具体的には、自社の業務にどのようにDXを落とし込んでいけば良いのでしょうか?

ITコーディネータ協会という団体があるのですが、まずはそこに相談するのが早いと思います。デジタル化しなくちゃと思いつつ、ビジョンや戦略がうまくはまらなくて悩んでいた会社が、ITコーディネータにアドバイスをもらったら、うまくロードマップが描けるようになったといった事例をよく聞きます。

DXって、会社によって現状も違えばやるべきことも違っていて、一般論でひとくくりにはできないものです。自社でうまく進められないと感じたら、ぜひ外部の方の力を借りながらやってみてください。最近は、地銀の方がITコーディネータの資格を取って、これまでの顧客支援業務の延長としてコンサルティングをされているというケースも増えています。

DXに取り組む企業に光を当てたい

―― 中小企業がDXを推進していく中で、国からはどのようなバックアップが用意されているのでしょうか?

費用の面では、「IT導入補助金」があります。これはITツールを導入するときに、その金額の一部を補助するというもの。例えば(厳密には類型ごとに補助率等が異なりますが、)「100万円のツールが50万円で買える」というイメージですね。

あとは「DX認定」をやっています。先ほど申し上げたデジタルガバナンス・コードに基づいて、パーパスやビジョン・戦略を作り、こちらが用意した6個のチェックポイントを埋めて、情報開示・申請をしていただくと、「DXにこれから取り組むために必要なことを全部やっている立派な企業さんです」という認定を差し上げています。 これは、日本を代表するような大企業から、全国の中小企業、そして個人事業主の方まで、会社の規模に関係なく申請いただけます。
どんなすごいDXをやっているのかを問うものではなく、「これからDXをがんばります」と宣言してくださった方々に光を当てる取り組みなので、なるべく多くの皆さんにお使いいただきたい制度ですね。 DX認定されると、専用のポータルサイトに社名と申請書の内容が掲載され、ロゴも使えるようになります。「DX認定」のロゴを名刺やホームページに入れることで、それがフックになって取引先との会話が弾んだり、新しい人材を採用する際にも有利に働いたりと、そんな嬉しい効果もあると聞いています。

―― DXセレクションというものも始められたと聞いています。こちらについても教えていただけますか?

日本全国の非上場企業を対象に、その地域でDXへの良い取り組みをしている会社を選抜して表彰するというものです。今年(2022年)第1回目をやって、来年2回目を開催するために、11月末から公募を開始したところです。

こちらも、がんばっている人たちに光を当てるのが目的ですので、まだそれほど成果が出ていなくても、明確なビジョンをもって、しっかりDXに取り組んでいるかどうかが選抜の際の基準になります。 前回、準グランプリに輝いたのは、油圧で動く機械のメンテナンスを行っている九州の会社でした。今は機械って電気で動かすのが一般的ですが、昔ながらの油圧で動く機械もまだ存在しています。それがどんどん電気に置き換わっていく中で、油圧の機械が最後の1台になっても、動いている限りメンテナンスの技術を守っていくのが本業だと宣言している会社です。 ただそれだと、将来的に会社が存続するだけの売り上げを確保するのが困難なので、デジタルを使った新事業を立ち上げたんです。具体的には、「AIを使った外観検査システムとプラットフォーム」を現在自社で作っていて、将来的には国内にとどまらず、海外にも販売できる事業に育てていくという話でした。そのビジョンと戦略が素晴らしかったので、それが評価されて準グランプリに選ばれたというわけです。DXセレクションの事例も、経済産業省のホームページでご紹介させていただいています。

デジタルとは事業の成長や継続に役立つもの

経済産業省 商務情報政策局 奥村 滉太朗 氏

―― 今後中小企業がDXを推進していくにあたり、経営者層はどんなマインドを持つべきだと思いますか?

経営者の皆さんは、より良い価値を社会へ提供するべく、日々がんばっていらっしゃることと思います。毎日忙しいあまり、ITやデジタルの活用を面倒に感じたり、億劫に思ったりすることもあるでしょう。でも、その素晴らしい事業をより効果的に、より広い範囲へ提供するために役立つのがデジタルなんです。

ですから、「デジタルを使わなくちゃいけない」という考えではなく、「デジタルを使えば、もっともっと事業を成長させられる」というマインドで取り組んでいただけると良いのかなと思っています。そして、デジタルを活用される際には、「どんな会社でありたいのか」また「5年後、10年後にどうなっていたいのか」ということを、ある程度の解像度の高さで考えていただくことをおすすめします。 ぜひ、少し時間と労力を使って、ご自分の会社の業務を見直したり、これから先の未来を考えたりしてみてください。そうすると、「デジタルを使わない方が良い」という結論に至ることは、ほとんどないと思います。

―― DX推進に関して、中小企業の経営層へのメッセージをお願いします。

日本には、古くから続いている企業が多く存在します。僕が今通っている床屋さんも4代目ですし、酒屋さんとかになると、それこそ十何代も続いているようなケースもあります。戦前戦後におじいちゃんの代から始まったというファミリービジネスもあれば、社長がどんどん変わりながら続いている会社さんもあります。

海外では、どんどん会社をつぶして、また作ってというケースも多いですが、日本は次の代、次の時代に続けていこうという文化が根付いています。そういう国であるからこそ、そのバトンを受け継いでいくことが大事になってくるんですね。 社会が変わって、技術が変わって、世界が変わっていく中で生き残っていくにはどうしたら良いか。本当に素晴らしい技術やマインド、もしくはそこにあること自体、ランドマーク的な意味があるんだということも含め、それらの価値を守っていくためにこそ使うべきなのが、実はデジタル技術だと思うんです。 大事な伝統を守りつつ、古き良きものを受け継いでいくためにも、これからはぜひ上手にデジタルを活用していただきたいですね。

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