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2023.02.08

全社員を巻き込んで楽しく!
身近なツールでデジタル化を推進

「業界記事」日東タオル株式会社 鳥山 貴弘 氏

前回の記事 で、独立行政法人 経済産業研究所(RIETI) リサーチアソシエイト 岩本 晃一 氏は、中小企業がDXを導入する際の心構えとして、「何でも良いから一番単純でわかりやすいことから着手すること」そして「デジタル化って良いものだなと実感すること」が大事だと話されていました。そこで今回は、日本橋にある日東タオル株式会社の代表取締役社長 鳥山 貴弘 氏に、社内でDXを押し進めるにあたり、着手してみて「良かったな」と実感できたことや、これからの課題について、リアルなお話をお聞きしてきました。

2022年11月、日東タオル株式会社の代表取締役社長に就任された3代目の鳥山貴弘氏。これまでの問屋にはなかった開かれた場「タオルカフェ」をオープンしたり、江戸切子とのコラボ商品を作ってクラウドファンディングを行うなど、さまざまな先進的な試みをしてきた同氏に、社内におけるデジタル化の進め方や、今後を見据えたネクストステップについて伺いました。

鳥山 貴弘 氏(とりやま たかひろ)


「業界記事」日東タオル株式会社 鳥山 貴弘 氏

プロフィール

  • 日東タオル株式会社 代表取締役社長

2002年東北大学教育学部卒業。医薬品卸会社、都立高英語科教諭を経て、2014年日東タオル株式会社に入社、専務取締役に就任。2016年関連会社「モラルテックス株式会社」を創業、代表取締役に就任。
2017年タオルカフェ(バタフライエフェクト)出店、2021年江戸切子の店華硝とのコラボ商品「米つなぎ紋様タオル」でクラウドファンディング成功。2022年11月、日東タオル株式会社 代表取締役社長に就任。

日本橋で長く愛されてきたタオルの総合商社

―― 事業内容についてお聞かせください。

弊社は日本橋に本社を構えるタオルの総合商社です。1947年に祖父が創業し、お年賀やお中元などで配る挨拶用のタオルを主力商品として扱ってきました。

僕は大学を卒業後、仙台にある医薬品の卸しの会社、それから高校の英語教諭を経て2014年に入社したのですが、そのときはまだ白いタオルだけでも60種類扱っていました。種類が多すぎるということで、整理して減らしたものの、現在でも白いタオルは40種類あります。

「こういうデザインのものを、このクオリティで、この期日までに」といったことをお客さまと一対一で打ち合わせをしながら決め、ご要望に合わせて名前を印刷したり、刺繍を施したり、箱に入れるなどしてカスタマイズします。

ただ単にタオルを仕入れて売るのではなく、企画提案力やプロデュース力を大切にしているところが我々の持ち味ですね。

「業界記事」日東タオル株式会社 鳥山 貴弘 氏

IT導入補助金でMAツールを導入

―― そんな老舗の御社が現在どのようにDXに取り組まれているのか教えてください。

僕が日東タオルに入社した頃はすでに業績が右肩下がりで、「このまま守りの経営を続けていくだけでは苦しいな」とずっと感じていました。そこで経営者の勉強会などにも参加するようになり、その中でMAツール(新規顧客の獲得や、見込み顧客の育成なども含めたマーケティング活動をサポートするためのデジタルツール)を開発しているスタートアップの方と知り合ったんです。

話を聞いているうちに「MAツールを使ってみたらうちも面白いことになるかもしれない」と思い、IT導入補助金を申請して導入しました。ちょうど、コロナ禍で対面の営業や販促に行き詰まりを感じていた2020年のことでした。

我が社は大手顧客数社で売り上げの8割が立つような商売ではなく、年間数万円のご注文をくださるようなお客さまを積み上げていく販売スタイルです。ですから、既存のお客さまにもう1回買ってもらえるように、アップセル・クロスセルを図った方が売り上げがプラスになる確率が高いんじゃないかと思ったんです。
:より上位の高価なものに移行してもらえる営業活動をアップセル、関連するものを組み合わせて購入してもらうことをクロスセルという)

MAツールって、新規の見込み客を開拓するのと、既存顧客へのフォローという2種類の使い方があると思うのですが、我が社では既存顧客にリーチする方をメインに使っています。

使い始めた当初から開封率が50%以上とすごく高くて、かなり反応は良かったですね。こちらから一斉配信したメールを、誰が何時何分に開けたかわかるので、本来であればそこで積極的にアプローチして新規受注をとるべきなのでしょうけれど、実際はそこまではできていないのが実情です。ここをもう一歩踏み込んで売り上げアップにつなげていくのが次の課題です。

ただ、定期的にメルマガを配信することで、例えばクラウドファンディングをしたり、他社さんとコラボをしたり、メディアに登場したりしたことを顧客の方々にお知らせすることができて、良好な関係性を保つのには一役買ってくれています。

自社だけで完結できない、受発注におけるDXの壁

―― 普段の受発注に関してはどのようにDXに取り組まれているのですか?

社内的には、「リモートデスクトップですべての売上システムや販売管理ソフトを見ることができる」という状態にしてあります。ですから、顧客からの問い合わせに関しては社員全員がつねに最新情報を共有の上、対応することができます。

また、オンラインでの会員登録や発注システムも整備しているのですが、うちのお客さまの年齢層がかなり高めなこともあり、実際の利用率は低いんです。どうしても注文は電話かFAXになってしまう。この辺りのデジタル化はお客さま側の世代交代が起きない限り、なかなか難しいなあと感じています。

見積書や請求書に関しても、「紙はいらないよ」という方がまだ少数派で、ペーパーレス化にはほど遠い状態ですね。

お客さまだけでなく、メーカー側の受発注の問題もあります。先ほどお客さまの年齢層が高いと言いましたが、実はそれってメーカー側も同じなんです。そしてメーカー側も受発注システムを使っているところは少ないので、まだまだデジタル化への道のりは遠いです。

僕は以前医薬品業界にいたんですけれど、そこでは、メーカー、卸し、薬局間でEDI取引(商取引で発生する発注書や納品書、請求書などの証憑類を電子化し、取引先と専用回線で接続してデータでやり取りする取引のこと)が成り立つように、薬局に対して卸しが販売ソフトを売って、メーカーまでオンラインでつないでいました。そうすることで在庫も厳密に管理できるんですね。

タオルは医薬品ほど在庫管理に厳密である必要がないから、そこまでコストをかけてしっかり管理しようということにはなかなかなりません。でも将来的には、メーカー側とうちとお客さまを受発注システムでくっつけられたら良いなとは思っています。

「業界記事」日東タオル株式会社 鳥山 貴弘 氏

チャットワーク導入で効果絶大!

 Chatwork株式会社が提供するクラウド型ビジネスチャットツール。メッセージのやりとりだけでなく、タスク管理やファイル共有、ビデオ通話などもできる。

―― チャットワークを活用したことで省力化やペーパーレス化が進んだとお聞きしたのですが、詳しく教えていただけますか?

毎年僕は経営計画を冊子にして社員に渡していますが、そこにはずっと「ペーパーレス化」って書いてあるんですよ(笑)。そのくらい業務から紙をなくしていくのはなかなか難しい……。

ただ、先ほど申し上げたMAツールを導入したときに、相手側のスタートアップとチャットワークを使ってやりとりすることになり、その流れで全社員がチャットワークを使うようになったんです。20名ぐらいの社員のうち60代以降が3分の1を占めていますし、最高齢は75歳ですが、みんな問題なくチャットワークを利用しています。

そうしたら、すごく便利になったんです。例えば「商品が欠品しました」「アイテムが変更しました」「お客さまがいつどこにきます」みたいな連絡がどんどん入るようになって。

以前は日報をエクセルで作って、それを紙で印刷し、それが1カ月後には紙束になっていて二度と見ない……みたいな状態でしたが、各自の日報も勤怠の連絡もチャットワークでやってもらうようにしました。日々の業務に関しては、流れる情報があれば良いと思っています。そしてそこに、「ありがとう」とか「困っているならこうしたら」「この単価で走っていいよ」といったコメントを入れています。

例えば今日みたいな場合も、「取材を受けます」という連絡を、これまでは僕がワードで打って全店にFAXを入れていましたが、チャットワークに流すだけで良くなりました(笑)。

直接業務に関わらないことでも、「こんなタオルの生地を見つけたよ」とか「あそこのお店でこんな風にタオルを売っていたよ」「このインスタいいよね」といった情報交換にも活用しています。

少なくとも我が社のような規模の会社だと、とても便利な機能だなと思っています。健全に活用するためにも、投稿する時間帯は原則平日の勤務時間帯の前後30分ぐらいまでというルールも決めています。

「業界記事」日東タオル株式会社 鳥山 貴弘 氏

コロナ禍の営業はデジタルツールを活用

―― コロナ禍になってから以前とは営業のやり方が変化したのでしょうか?

うちのお客さまは、もともとタオルを注文される時期が決まっている方が多いんです。例えば運動会とか、敬老の日だとか。ですから、そういったイベントごとに合わせて1カ月ほど前にDMをお送りするようにしています。そして、お打ち合わせはZoomで行うことが増えましたね。

ですから基本的な流れは以前と変わってはいないのですが、直接訪問したりお会いするのではなく、商談にデジタルツールを使うようになったことが以前と異なる点でしょうか。

また最近の傾向として、LINEでやりとりさせていただくケースも出てきました。最初に申し上げたように、弊社の業務は挨拶用タオルのプロデュース業がメインです。「こういう大きさの刺繍を入れることはできるか」「予算に合うもので一番品質の良いタオルはどれか」といったご相談事って、LINEを使ってチャット形式で行うのも、どうやら相性が良いようなんですね。

デジタル化を推し進めつつ、顧客のニーズも大切に

―― 御社が見据える今後の展望について教えてください。

ネクストステップとしては、「一般の方向けの小売部門をつくりたい」と思っています。そのためには、使いやすくて魅力的なオンラインショップの立ち上げが必須です。現在も、法人向けのオンラインショップは一応あるのですが、あまり動いていない状態です。ですので今後のテコ入れポイントは、法人向けにしろ個人向けにしろ、オンラインショップをどう展開して、どう稼働させていくか、です。

今後は、もしかして在庫を抱えるような店舗は不要になって、ショールームさえあればよくなるかもしれません。そうなると、さらにデジタル化を押し進める必要が出てきます。デジタルのカタログがあって、デジタルで営業ができ、デジタルで商談ができる。それらがすべて売上システムや販売管理ソフトと紐づいている……というイメージですね。

ただ逆にデジタル化だけで走った場合、うちは大手企業に負けてしまいます。これまで通り、「どうデザインしたら良いかわからない」と口頭でご相談にいらっしゃるようなお客さまのニーズに的確にお応えし、「日東さんだから」とご指名いただけるようなウェットな部分も残しつつ、デジタル化との両輪でビジネスを発展させていきたいと思っています。

―― 最後に、中小企業の経営者の方々に向けて、デジタル化に関するアドバイスをいただけますか?

今は、高齢者の方でもスマートフォンを使いこなせる方がほとんどです。弊社も、チャットワークを導入後、1カ月くらいでみんな普通に使いこなせるようになりました。そういった意味では、デジタル化における年齢のハードルは以前より下がってきていると思います。チャットワークだけでも、社内における情報のスピードが全然違うので、そういったやりやすいところからまずは着手されてみてはいかがでしょうか?

また、弊社がMAツールやチャットワークを導入したのは、僕が勉強会に参加したり、他社さんの話を聞いたりしたことがきっかけになっています。ですから、外部での情報収集はとても大事。ぜひ、意欲的に新しい情報に触れて、それを社内に持ち帰るようにしてみてください。

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