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2023.03.07

お客さまとスタッフを喜ばせたい!
それがDXの原動力

前回の記事 で、喜多羅株式会社 Chief Evangelist 喜多羅 滋夫 氏は、中小企業がDXを推進する上で一番必要なのは、経営者の「会社を変えていく」という姿勢であると話されていました。
そこで今回は、スマートフォン1台で事前注文が可能なモバイルオーダーを自社で開発し、いち早くDXで外食産業にイノベーションを起こし続けている、株式会社 CRISPの代表取締役CEO 宮野 浩史 氏に、デジタルシフトを決断してきた経緯やその思いについて伺いました。

宮野 浩史 氏(みやの ひろし)


プロフィール

  • 株式会社CRISP 代表取締役CEO

1981年千葉県生まれ。15歳で渡米し、18歳のときに現地で飲食業にて起業。22歳で帰国し、タリーズコーヒージャパンに入社。その後、ブリトー&タコス専門店「フリホーレス ブリトー&タコス」を立ち上げる。
現在は、「熱狂的なファンをつくる」をミッションに、カスタムサラダレストラン「CRISP SALAD WORKS」を19店舗展開。おいしいサラダとDXを駆使した顧客対応で、超人気店へと育てている。

サラダ1つで食事になる専門店

―― 御社の事業内容についてお聞かせください。

僕らの会社は2014年創業、現在8年目の会社になります。東京都内を中心に、カスタムサラダレストラン「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」を展開していて、そのうち17店舗は東京、1店舗が神奈川、1店舗が大阪にあります。

「CRISP SALAD WORKS」は、サラダが食事として楽しめる専門店です。これまで、日本にそういったお店はなかったのですが、サラダ1つでお腹がいっぱいになるので、おいしい上に健康的な食事ができるというのが特長です。

お客さまの体験をDXでより良いものに

―― サラダ専門店である御社がIT投資を始めたきっかけについてお話いただけますか?

2014年、麻布十番に1号店を出店したとき、予想以上にお客さまがたくさん来てくれたんです。おかげさまで売り上げが増え、業績自体はどんどん良くなっていく一方、お客さまの体験自体は、決して良くなってはいないという課題がありました。

どういうことかと言うと、ランチタイムになると行列ができて何十分も待たなくてはいけなかったり、せっかく来てくださった常連さんが忙しそうだからと帰ってしまったり。また、お店が繁盛すると新しいスタッフをどんどん採用することになるので、彼らが常連さんに「初めてですか?」とお声がけしてしまうこともありました。

サラダの味が落ちることはないのですが、お客さまの体験としては、実はお店がそれほど繁盛していないときの方が良かった。お客さまが増えれば増えるほど、こちらのサービスが行き届かなくなってしまう……。それって、すごくおかしなことだと。ですから、良い商品やサービスを提供し、その対価としてお客さまが払ってくださったキャッシュを再投資して、一人ひとりのお客さまに対し、より多くの価値を届けられるようにしなくてはいけないと思ったのです。

確かに外食産業って、規模が大きくなって店舗が増えるほど厳しい効率化が求められます。すると、もともとあったはずの価値が少しずつすり減ってしまったり、資金や人員を投下しているのに最終的にお客さまに届けるバリューが思ったよりも大きくならないなどといったことが起こりやすい。そういう悩みを、デジタルの力で解決したいと思ったのです。

「せっかく来てくれるお客さまを待たせないようにしたい」そして、「そのお客さまが誰だかわかるようにしたい」という思いから、まだ1店舗しかなかった初期段階で、今のモバイルオーダーの前身となるアプリを開発し、2017年に実装しました。ちょうどアメリカでスターバックスがモバイルオーダーを始めて話題になっていた頃のことです。

飲食店の場合、属人的に覚えているケースがほとんどで、僕も常連さんの名前が思い出せないとき、隣のスタッフに「あのお客さまのお名前、なんだっけ?」って聞いたりしていたのですが、データ化したことでそんな悩みも解決しました。覚えることは人間より機械の方が優れていますから。

もちろん、お客さまを識別できるということの先にある、それを僕たちが「どういうタイミングで、どういう伝え方をするのか」がお客さまの体験にとって一番大事な部分です。デジタルで解決できることはデジタルで解決し、人が対応しなくてはいけないことに関しては、その時間を十分に確保できるようにする。それがDXの本分だと思っています。

デジタルシフトはメリットばかり

―― 現在はさらにどのような場面でIT投資をされていますか?

注文の部分でいうと、大きく3つの領域でテクノロジー投資をしています。まず1つめがカスタマー。つまりお客さまに対して、モバイルオーダーやセルフレジを提供することで、「注文する」をデジタル化しています。例えば夜中にふと目が覚めて、「明日のお昼にサラダを食べたいな」と思ったら、その場で注文できる。つまり、待たずに済むのはもちろん、注文の主導権をお客さま側にお渡しすることになるわけですね。

またこちら側は、アプリをインストールしてくれたお客さまに対し、通知やプロモーションをすることができます。これまでのアナログの世界では、お客さまがお店に足を運んでくれないとコミュニケーションがとれなかったのですが、来店されないときでもそれが可能になったのは大きい変化ですね。

2つめはオペレーション。以前はお客さまからカウンター越しに口頭で注文を受けて、スタッフがそれをメモし、サラダを作っていました。デジタル化されてからは、注文やトッピング内容は全部レシートになって出てきます。効率がよくなり、スタッフの手間が減ったわけです。

今後はサラダを作る手前、つまり仕込みの段階でいかに生産性を上げていくのかが課題です。スタッフにもっとがんばってもらおうということではなく、がんばり具合は同じでも不思議と生産性が上がっている、という状態をつくりたい。そのために必要なのがテクノロジーだと思っています。

僕らの店では、店内で毎日野菜を洗ってカットして調理するというファストフードよりもレストランに近いオペレーションが必要で、本来ならシェフや職人さんがやるようなことをアルバイトを含めたスタッフが行うので、段取り次第で生産性が大きく変わってくる。でもそこで、売り上げデータと在庫の状況から逆算して、何を先に作るべきなのかというガイドラインを示せれば、各スタッフの習熟度にかかわらず生産性は上げられるはずです。

3つめは、カスタマー・オペレーション・パートナーの連携です。パートナーというのはスタッフのことで、僕らはそう呼んでいます。実は今、自社の勤怠ソフトを開発して、ちょうど2022年12月から社内で運用を始めたところです。

これまでアルバイトの皆さんには、ひと月に1回店長に希望日を提出してもらっていました。その後調整に1週間ほどかかり、シフトが決まるのはいつもギリギリでした。その結果、週3日働くつもりでいても2日しか入れなかったり、急に都合が悪くなったときには個別でなんとか調整するなどの課題があったのです。そこで新しい勤怠ソフトを導入して、飛行機やホテルを予約するように、空きシフトのわかる枠が全部用意されていて、そこにアルバイトの皆さんが入力することで即時決定できるようにしたわけです。このように、主導権を働く側に渡すことで、働き方の自由度が増しました。

さらにこのシステムでは、普段所属している店に限らず、いつでも好きなときに好きな店舗で働くことができます。最近、「ちょっと時間が空いたから働きたい」というスタイルのアルバイトが流行っていますが、知らないお店に行くよりも、自分の所属している店で働ける方が当然いい。店舗が変わっても慣れた職場なので本領を発揮できますから。

オペレーションの観点から見ると、現在400人ほどのアルバイトの方が、月平均50時間ぐらいシフトを入れていたのですが、新しい勤怠ソフトのおかげで、1人あたりの勤務時間がひと月に10時間ほど増える。すると採用コストやトレーニング費用を減らせます。お客さまから見ても、慣れたいつものスタッフがお店にいてくれるのは安心です。

また店長サイドから見ても、毎月のシフトを決めるために、スタッフに連絡して細かい調整をする手間が省けるし、会社単位でいうと、勤怠ソフトと売り上げ情報、仕込みの情報などを繋げて、より細かくデータが取れるようになります。今までだったら、勤怠ソフトをひと月に1回締めて、CSVでダウンロードして、それをExcelに書き写し、売り上げのデータを引っ張ってきて計算して……という流れだったのですが、リアルタイムで売り上げとアルバイトのシフト時間がわかるから、それが適正かどうかの判断がすぐにつきます。働きやすい仕組みをつくることで、こういったいろいろな効果も期待できます。

カスタマーのためにも、デジタルで繋ぐことで良いことはたくさんあります。例えば、お客さまアンケート。よくあるのはテーブルに紙が置いてあって、それに書くというものですね。ひと昔前、僕がチェーン店で働いていたときは、それをひと月に1回集めて本社に出していました。ところが、それだといったいどのお客さまが、いつ書いたものかわからない。「接客が悪かった」と書かれていても、そのとき、たまたま人手が足りなかったのか、それとも本当に接客態度に問題があったのか判断がつきません。

そこで我々は、アプリ経由で直接お客さまからフィードバックをいただくようにしました。具体的には、アプリを使って注文したお客さまが、次に注文する際、「前回はどうでしたか?」という質問が画面上に出るのでワンクリックで回答できます。月間で7〜8万件ぐらいの注文数に対し、1〜1.5万件の回答をいただいている状況です。

お客さまには、5段階で評価していただきます。それで5の割合を見るのですが、2022年始めの段階で80%だったのが、ちょうど1年経って85%に上がってきました。年間10万件以上のアンケートの結果なので、お客さまの感情という定性的な情報も数が集まってデジタル化されると、定量的なデータになりうると思っています。

デジタル化が進みにくい外食産業

―― 数々のDXはどのように発想されたのですか?また外食産業におけるDXの難しさについて教えてください。

僕らがすごくユニークな考えを持っているわけではなく、この業界にいる人であれば同じように「こうだったらいいのに」と感じている人は多いはずです。ただそれをなかなか変えられないのではないでしょうか。別の業界からすると、「お客さまの声がリアルタイムで聞けます」とか「買ってくれた人がどんな人かわかります」といったことは当たり前だったりします。

そもそも、お客さまがわからなかったら商売ができるわけないと思うんですね。何らかのサービスを伸ばそうというときに、お客さまが誰かわからない、ユーザー数もわからない、リピート率もわからない、となれば仕事になりません。

ただ外食産業にある課題は理解しているけれど、テクノロジーを使った解決方法をイメージできる人材が多くないのです。一方で世の中にはテクノロジーを使って課題を解決していくことに長けているプロフェッショナルがたくさんいますが、逆にそういう方々は、外食産業固有の課題みたいなものはイメージしづらい。そこに歪みがあるのかなと思っています。

もともと業界的にデジタル化が進んでいないし、データやファクトでビジネスをするというよりも、勘と経験に頼って経営をしているケースが多いのです。例えば、カリスマ社長が、とても奇抜なメニューを作ったり、面白いアイデアをだして、それがなぜかわからないけれど売れている、というような(笑)。でも理由がわからないとPDCAが回らないから、持続的な成長が見込めない。

もちろんグローバルで見れば、世界最大のコーヒーチェーンのようにエクセレントな経営をされている企業もありますが、我々のような中小企業だとまだこれまでの慣習が根強く残っていることが多いですね。

お客さまにはもちろん、
スタッフにも選ばれる企業へ

―― 今後さらにDXを推し進めていかれると思いますが、その先にどのような未来を描いていますか?

僕らは外食企業なので、お客さまにサラダを食べてもらって、「おいしいな」「また来たい」と思ってもらうことがすべてです。ただ世の中にはおいしいものが溢れているので、「おいしいサラダが食べられる」だけでは充分じゃない。そこを補う手段がテクノロジーです。

実は飲食って、そういうレベルまで来ているのかなと感じています。昔はおいしくない店もいっぱいありました。20年ほど前のグルメサイトに、「失敗しない店探し」というキャッチフレーズがあったと思うのですが、今は失敗する方が難しい(笑)。レビューなどの情報も溢れていて事前に評価がわかるし、Youtubeを見たらどんなメニューもほぼ作れます。おいしいと言っている人が何百人もいるようなキュレーション・サイト(テーマに沿って情報を収集・整理したサイト)の人気レシピともなれば、失敗する確率は限りなくゼロでしょう。

もちろんミシュランの星を獲得したシェフのような特別なクリエイティビティというのも存在するけれど、我々の普段の食事は、もうどれもおいしすぎて人間が違いを認識するのが難しくなってきています。そうなると、やはり味だけではなく、体験をどうやって伝えていくのかが大事。同じサラダでも、お気に入りの店で、「お仕事お疲れさまです」と言って渡されるのと、コンビニで買って、暗い部屋でテレビを見ながら食べるのとではたぶん味も違うし、体験としても違うと思うんです。

相手に喜んでもらいたいとき、その人に興味を持ちますよね。好きな人のことって知りたいし、知れば知るほど、その人に喜んでもらうことができます。だから、お客さまのことを知りたかったら、データを取る必要があるということです。

もちろんパートナー(スタッフ)のことも知る必要があります。なぜなら、彼らに選ばれるような会社でありたいし、彼らに会社を好きになってもらいたいからです。働いている人がハッピーになって初めてお客さまのこともハッピーにできると思うので、彼らを飛び越えて、お客さまのことだけ知っていてもダメなんです。

そういうわけで、「パートナーのことをもっとよく知りたい」と思って開発したのが、冒頭でお話しした勤怠アプリです。このアプリを400名のスマホに入れるということは、コミュニケーション手段が増えるということ。お客さまには、割引サービスをしたり、メルマガを打ったりしてがんばるのに、働いている人をファンにするための工夫ってなかなか行わないものです。でも、働いているスタッフのやる気や店への愛着心が強いと確実に業績も上がります。であれば、お客さまと同様に、スタッフの気持ちも掴んでいくのがマーケティング的にも重要だと思っています。

魅力ある飲食業界

―― DX導入が進んでない同業他社の経営者の方々に対して何かメッセージをいただけますか?

デジタル化もそうですし、未開拓なことがまだまだ多いと感じています。逆に言うと伸びしろはすごくあるのではないでしょうか。「これを解決すれば、もっとお客さまの体験が向上するよね」ということから、まずは取り組まれるのも良いかと思います。

僕らはたまたま1店舗目の売れ行きが良かったので自社でアプリを開発しましたが、今は大きな投資や意思決定をしなくても、使いやすいITツールがどんどん出てきています。それを目的に応じて使ってみてはどうでしょうか。

食というのは、何が起こっても需要が減るものではありません。コロナで流行らなくなった店はあったかもしれませんが、食べること自体はすべての人がほぼ1日3回、自ら能動的に意思決定を行うわけです。

そういう点でもとても魅力のある業界です。ぜひできることから挑戦していきましょう。

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