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2021.06.17

ICTツール導入により、ECに大きく動き出した事業環境下でも、楽器の製造・
販売・輸入を一手に行う、楽器製造販売会社の強みを、最大限に活かす

株式会社カノウプス〈製造業〉

楽器業界には、消費者は店頭で実際に楽器を手に取って、試奏して、実際の音色を聴いた上で楽器を購入する、という永年の業界の常識があり、業界各社は実店舗での販売に力を入れてきた。しかし、今はそのような常識が非常識になる時代になった。消費者はインターネットで様々な関連情報を検索し、その情報を基に自分の希望に合った楽器を見つけ出して、ECサイトで購入する。ECによる販売が予想以上に早く広がり、業界全体の売り上げの半分を占める状況に変わり、更にECサイトでの販売の比率があがっている。
このような事業環境の下、オリジナルブランド商品・他社既存ブランドの新品・中古品・輸入品・ヴィンテージ商品を扱う幅広い業態のカノウプス社は、早くから実店舗販売と同時に自社サイトや複数のECサイトで商品販売を行ってきている。今回のシステム開発・導入によって、カノウプス社はECサイトでの販売と実店舗販売の両方の販売を効率的に行うために必要なデータの一元管理を目指した。

株式会社カノウプス営業部部長 松村史明氏に、お話を伺った。

カノウプス製品

課題の整理

カノウプス社は、オリジナルブランド商品・他社既存ブランドの新品・中古品・輸入品・ヴィンテージ商品を実店舗での販売とECサイトでの販売を行っており、データの連携と業務に携わる従業員の作業は複雑になっている。
カノウプス社では、今回のシステム開発・導入に以下の課題を持っていた。

EC関連のシステム開発では、複数のECサイトでの販売数を一元的に自動で更新し、在庫数を管理するための開発に着手している。この開発での重要課題は、自社の基幹システムとネットショップ管理システム”NEXT ENGINE”とのデータ連携を図ることにあった。しかし、システム開発において、依頼元(カノウプス社)とITベンダーの間に立つ役割をになったコンサルタントが十分に機能せずに、開発が頓挫した経験がある。

1)この失敗経験を活かし、成果に繋がる開発を進めること。
自社で製造工場を持ち、中古楽器の買い取り、オーバーホール・修理、販売を行うという強みを持つカノウプス社ではあるが、従来から、担当者が新品と中古品を別々に管理し、対応している。

2)この新品と中古品の業務を一括で管理すること。

3)Excelにより行っている中古品のオーバーホール・修理に必要なパーツ毎の在庫・発注・払い出し等の生産管理をシステム化すること。

4)多元管理でかつ情報管理を担当する従業員に依存している、新品と中古品、ECサイトと実店舗販売の一連の業務に必要な情報を一元化し、かつその情報の管理を自動化すること。

ECと在庫への対応

実店舗での販売と複数のECサイトの運営を行うカノウプス社にとって、最新の在庫数量を把握する仕組みは、欲しいときに欲しいものを直ぐに手にしたい顧客の満足度を維持向上させるための重要な仕組みになる。

複数のECサイトの販売状況を一元化し、実店舗の状況と合わせて、在庫データをリアルタイムに処理を行うことで在庫を管理する。

在庫管理の対象となるのは、新品、修理品と中古品とそれぞれの製品の部品構成に基づいた製造・修理工程管理である。在庫管理の内容は、海外/国内の実店舗にて、在庫リストとして展開される。

自社基幹システムと”NEXT ENGINE ”を直接に繋ぐのではなく、担当者が両システムの間に入り、データを移行している。

基幹システムを中心に、製造・卸・小売、海外輸出入での在庫管理を一本化し、業務を効率化するためには、基幹システムを補うシステムが必要であった。

新品と中古品における対応

カノウプス社の主力製品であるアコースティック楽器ドラムは、多くの材料・部品等で構成されている。構成品は内製部品だけでなく、外部から購入する材料・部品等も少なくない。製造工程も多く、複雑である。

また、カノウプス社は自社工場で、新品の製造だけでなく、中古品も扱っている。
中古品を買い取り、自社工場にてオーバーホール・修理を行い、新品に近い姿に再生する。
中古品は、Vintageシリーズ品として、カノウプス社の商品ラインナップで重要な位置を占めている。
中古品は、その傷み具合や状態は一つひとつ異なり、買い取りの際に入念に診断し、診断結果をシステムに登録している。中古品のオーバーホール・修理に必要な材料・部品等は、個別に一つひとつ、製作、購入しており、パーツ毎の管理が必要である。

さらに、新品においても、自社ブランド品を製造するだけでなく、海外ブランド品を輸入して独自にカスタマイズして、カノウプス社の商品ラインナップに加えて、販売している。

中古品買取の対応

中古品の買取は、カノウプス社の事業において、重要な役割を担う作業となっている。

持ち込まれた中古品を買い取り後、システムの全商品リストに登録し、JANコードと社内の管理のための番号・インストアコードを取得する。

中古品を扱う上では、既に廃番となった製品の管理(廃番管理)も必要になる。カタログ(アイテム一覧)に基づいて、中古品の情報をマスターとして登録している。

さらに、中古品の傷み具合や欠品等の状態を細かく入力することも、必要な材料や部品の発注と修理工程の策定のために重要な作業になる。

システム開発・導入の流れ

カノウプス社は、今回のシステム開発・導入の入り口として、公社の提供する「導入前適正化診断」を受診した。この診断を通して、経営課題と現場での困りごとをすり合わせることで、システムでやるべきこととやるべきでないことが整理でき、その成果を踏まえて、システム開発・導入に臨むことができた。

現場での意見を

導入後にシステムが現場で活用されるためには、システム開発において現場の声を機能としてシステムに盛り込むことがとても重要であった。社内に情報システム部門を持たないカノウプス社では、営業部部長松村氏が開発業者(ITベンダー)との窓口として対応された。一番現場の声を把握、理解している現場責任者が窓口となったことで、現場の生の声が一つひとつの機能やユーザーインタフェースとしてシステムに反映されることになった。

ITベンダーを

カノウプス社は、ITベンダーを単なる外注先にするのか、システム開発・導入のための強い味方にするのかは、システム開発・導入においてとても重要であると考えた。必要な機能を漏らさず実現したい依頼元と自社のリソースを有効に使って効率よく開発を進めたいITベンダーとは利害の対立する場面もある。しかし、今回のような助成金採択に基づくシステム開発では、ITベンダーが依頼元の立ち位置を理解することが必要であるとカノウプス社は考えた。カノウプス社は、ITベンダーとの契約書に助成金対応に関する条項を入れ、ITベンダーが依頼元と同じ立ち位置でシステム開発を行うようにした。

導入後のシステム・ツール

導入したシステム・ツール「スマホアプリ」、「タブレット端末」と既存の「基幹システム」が現場での活用されることを一番に考え、現場で使いやすいユーザーインタフェースにこだわった。

基幹システム

基幹システムは、2003年に独自開発し、使用している。主な機能は以下のとおりである。
在庫管理リスト(国内/海外/実店舗・ECサイト)
製造管理(画面)
パーツ発注業務、部品・製品の輸出入管理(クラウドツールでのステータス管理)
ポスレジによるデータ蓄積
個人通関システム(NACS)
バーコードによる在庫管理

この基幹システムを補うために、今回のシステム開発・導入を行った。

PC上の基幹システム画面
PC上の基幹システム画面

導入したシステムの構成

<スマホアプリ>
スマホアプリにより、実店舗の接客の現場で、様々な情報をタイムリーに確認することができるようにした。

スマホアプリの画面
スマホアプリの画面

<タブレット端末>
タブレット端末を導入することで、現場での作業が円滑に進んでいる。

タブレット端末からのQRコードの読み込み
タブレット端末からのQRコードの読み込み

できたこと

ITベンダーとの打合せを徹底して行い、やりたいことの実現のために、やりたいことを具体的な詳細仕様に落とし込む作業をITベンダーと共同で何度も行った。さらに週1回の打合せで、ITベンダーの開発状況を把握しながら、開発での問題点を整理し、短い開発期間で、欲しい機能だけを持ったシステムを開発・導入することができた。依頼元が主導して、ITベンダーの言いなりにならない適正なシステム開発・導入ができた。

有形効果・直接的効果

有形・直接的効果としては、
1) 入力作業時間の削減による作業の効率化
2) QRコード等による入力等のミスの削減
が挙げられる。

無形効果・間接的効果

無形・間接的効果としては、
1) 無駄作業への担当者の意識の高まり
2) 担当者の業務への理解が深まる
3) 一元管理に必要な情報の初期データ入力を担当者で行うことがシステムの導入教育になった
4) システムに使われるのではなくシステムを使うことを実現できた
5) ITベンダーの言いなりにならないシステム開発の進め方の理解
6) 必要なことでだけを開発する適正な開発を実行できた
7) システム保守等の運用コストへの意識の高まり
が挙げられる。

今後公社に望むこと

カノウプス社は、2019年度に「導入前適正化診断」を受診し、その診断結果を基にICTツール導入助成金の申請を行い、採択され、システムの開発・導入に至った。企業の経営課題の解決に必要なこと、企業のやりたいことを整理したうえで、システム開発・導入に臨むことができた。
カノウプス社は、今回のシステム開発・導入において苦労した以下2点を今後公社に期待している。
1)ITベンダーを選定するための具体的な情報やアドバイス
2)ITベンダーに示す詳細設計書への支援

次に考えていること

カノウプス社は、現場での生産性向上に向けて、基幹システム周りで今後取り組みたいことを以下のように挙げている。

基幹システムと”NEXT ENGINE”システムのデータ連携
顧客連携(CRM)
顧客アプリ
個人情報のQRコード化
現場での業務マニュアル作成
顧客向け動画配信の充実

企業情報

社名
株式会社カノウプス
所在地
〒168-0072 東京都杉並区高井戸東2-3-16
設立
1981年
事業内容
オリジナルドラム製作・販売・輸入楽器販売
資本金
1,000万円
従業員数

インタビュイー

株式会社カノウプス

代表取締役 碓田 信一氏